しかも、この時期に好まれる食べ物には、太りそうなものが多い。糖質や脂質、カロリーが高いものばかりだ。最近の研究では、そういうものには麻薬にも似た依存性があるとされ、こんな食べ物が代表として挙げられている。ピザ、チョコレート、クッキー、アイス、フライドポテト、フライドチキン、ケーキ、チーズ、ベーコン、ポップコーン、炭酸飲料。いわゆるパーティー料理だ。また、最近はおせち料理などもけっこう太りやすいのではないか。年末年始が過食の入口になったり、エスカレートすることになったりするのもうなずけるところだ。

 太りそうな食べ物が「幸せ」の象徴みたいになっているのは、人類の歴史が飢餓との戦いだったことと無縁ではないだろう。痩せることが「幸せ」というのは、ごく最近の感覚にすぎない。太古以来の刷り込みは根深く、人は痩せたいと願う意識とは裏腹に、太りそうなものを食べること、すなわち、太ることに幸せを感じるようにできているのだ。

 クリスマスや正月は、そんな人類が長年かけて築いてきた伝統文化をひしひしと感じる時期である。その重みはまだまだ、そうとうなものだ。それでも最近は、大豆メーカーが年越しそば用のソイヌードルを売り出すなど、さまざまな工夫や抵抗(?)が試みられつつある。

 年末年始、痩せるという歴史の浅い価値観に惹かれる人たちが、その理想を貫き通すのは難しい。この記事が、何かの手助けになればよいのだが。

宝泉薫(ほうせん・かおる)1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』エフ=宝泉薫名義の『痩せ姫 生きづらさの果てに』など。

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宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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