ホームゲームのスタジアムDJ、パトリック・ユウさんも「優しさ」を感じている一人だ。

「今年も苦しい試合が多かったですけど、要所で諦めないスワローズ野球が感じられた。ヤクルトファンはその点“わかっている”人が多いですよね。毎試合熱くなりつつも、長いシーズンのなかで苦しい時もある、成績が悪い年もあると、どこか冷静なファンが多いと思います」

 歴史を紐解くと、ヤクルトは90年代の野村監督時代こそ黄金期を迎えたが、元々コンスタントにAクラス入りするようなチームではない。むしろ苦しいシーズンの方が多いのだ。

 ただ、その時々で球界を代表する選手が現れ、チームの希望となってきたことも事実である。近年では青木宣親、山田哲人、そして今年、新人王を獲得した村上宗隆らがその例だ。生え抜きのスター選手が軸となった時、スワローズは驚異的な強さを見せてくれる。そのことを“わかっている”ファンが多いのではないだろうか。

 ふがいない試合が続いて我慢ならなくなった時は、スタンドで“居酒屋神宮球場”を開き、仲間とお酒を飲めばいいじゃないか。そのくらいの気概を持って応援している人が少なくとも私の周りには多いのだ。そんな「ゆるさ」が球場には漂っているのである。

 しかし現在の神宮球場は東京五輪後の再開発で解体、移転が予定されている。現在の秩父宮ラグビー場付近に移転して商業施設と隣接する複合型野球場、いわゆる“ボールパーク”として生まれ変わるのである。日本の首都・東京のど真ん中にあるボールパークとなれば、世界から注目を集めるだろう。今後はエンタメ分野での新しい施策も期待されている。

 新しい時代のなかで、ヤクルト独特のアットホームな雰囲気をどう残していくのか。古き良きプロ野球のレガシーが球場ごとなくなってしまわぬよう、球団やファンは今後について議論を深めてほしい。

(取材・文/池田鉄平,森大樹)