雑誌で特集が組まれたり、ネタ番組の中で独立したコーナーができたりした。何よりも、霜降り明星の台頭に伴って、EXIT、宮下草薙、ハナコなど、同世代の芸人が続々と世に出てきた。霜降り明星が旗振り役となって「お笑い第七世代」という新たなムーブメントを生み出したのだ。

 さらに、デジタルネイティブ世代でインターネットにも親しんでいる彼らは「しもふりチューブ」というYouTubeチャンネルを開設した。ここでも積極的に動画を公開し続けており、現時点で約38万人の登録者がいる。「M-1」を制し、地上波テレビを制した彼らは、YouTuberとしてもきっちり結果を残しているのだ。

 そんな霜降り明星の活動を振り返って改めて驚かされるのは、彼らの引き出しの多さである。粗品の言葉のセンスとせいやの動きの面白さにはもともと定評があったのだが、彼らの武器はそれだけではなかった。

 粗品は、クラシックからアニソンまで幅広い音楽を聴く趣味があり、ピアノをはじめとして数多くの楽器を弾きこなす。さらに、実家の焼肉屋を手伝っていたため、肉の切り方や焼き方にも異常なこだわりを見せる。また、粗品が企画・主演を担当した「霜降り明星・粗品が今一番やりたい企画TV」(関西テレビ・フジテレビ系)という特番では、序盤に緻密に張った伏線をあとから回収する斬新な構成で見る人に衝撃を与えた。

 一方のせいやも、笑いでいじめを克服したという感動的なエピソードがあったり、古い歌謡曲が好きでアグネス・チャンの大ファンであったりするなど、クセの強いキャラクターの持ち主だ。ドッキリ企画などでは予測不能のリアクションで見る者を楽しませる。バラエティ番組の「素材」として、2人が2人とも魅力的なのだ。

 昨年末の「M-1」で、優勝した霜降り明星と2位の和牛との差はたった1票しかなかった。あの1票が和牛に投じられていたら、霜降り明星がここまで活躍することはなかった。「M-1」は、ほんのわずかな差で芸人の人生を左右する恐るべきイベントなのだ。運命を分けるその一瞬を経て、今年はどんな王者が誕生するのだろうか。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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