ただ、ザギトワの進退に関心が集まるのは、17歳の彼女ですら新しい世代に追われて競技の世界を去らなければならないとしたら、それはあまりにも酷だと多くの人が感じているからだろう。体つきが女性らしくなった今のザギトワは、平昌五輪当時と較べてジャンプの鋭さには欠けるかもしれないが、演技の味わいは格段に深くなった。少女だった選手が大人の女性に成長していく過程を見守れないのが女子シングルの現状だとしたら、それは好ましいとはいえない。

 年齢を重ねることで出せる演技の深みも点数に反映されるフィギュアスケートは特殊なスポーツなのかもしれないが、それこそが醍醐味でもある。高難度のジャンプを評価するのと同様に、表現力も跳んだジャンプの難しさには左右されることなく正当に得点上で評価することが、女子シングルの競技会を小さな女の子たちのジャンプ大会にしないための方法ではないだろうか。(文・沢田聡子)

●沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」