「あと1人」でノーヒットノーランを阻止したばかりでなく、シーズンに3度もノーヒットスポイラー(無安打破り)を達成したのが、阪神・久慈だ。

 96年5月18日の広島戦(甲子園)、チェコの前に9回2死まで無安打無得点に抑えられていた猛虎打線。だが、ノーヒットノーランまで「あと1人」という土壇場で、久慈が執念の中越え二塁打を放ち、不名誉な記録を阻止した。

 さらにチームが2安打完封負けを喫した6月19日のヤクルト戦(同)で、久慈は1回に中前、4回に左前とチームの全安打を記録している。

 そして、2度あることは3度あった。同23日の広島戦(富山)、阪神打線は右横手投げ・山崎健の前に1安打完封負けの屈辱を味わうが、そんななかにあって、久慈は1回にチーム唯一の安打となる左翼線二塁打を記録。シーズン3度のノーヒットスポイラーは、82年の山本浩二(広島)以来、プロ野球史上2人目の快挙だった。しかも、わずか1カ月余りでの達成は、山本の2カ月と20日より短期間でのGJだった。

 その久慈は「カーブ狙いでうまく打てた。(山崎は)カーブとシンカーをまんべんなく投げていた」と振り返りつつも、「でも、あとで考えると、あの1本だけでしたね」と残念がった。

 同年、130試合フル出場を果たした久慈だが、打率2割7分8厘、0本塁打、16打点とそれほど目立った成績は残していない。もともと守備の人だが、そんな選手が打撃でも“ミスター赤ヘル"と肩を並べる快挙を実現するのも、野球の面白さである。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2019」上・下巻(野球文明叢書)。

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久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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