「人は何のために生きるのか」「何が幸せなのか」という私の問題意識に戻ると、人は自分が望まないことを強制されていれる(と感じる)状態は幸せではありません。一方で好きな人(々)と一緒にいる、ということは生きる目的の一つだと思います。そういう点で夫婦や家族の中で強制のないコミュニケーションを維持する努力は、家族を成り立たせるためにお金を稼いだり、家事・育児をするのと同じぐらい大切なことだと考えています。

 剛さんは面接の場では、欲しがっていた目の前の解決策が得られないにもかかわらず、お二人は定期的にカウンセリングを続けました。それも一つの未解決状態に耐える能力かもしれません。短期間で目に見えて関係が改善したわけではありませんが、年単位の時間をかけて、次第にお話ができるようになりました。しかし現実は、さっさと解決しないストレスに耐えかねてドロップアウトしてしまうカップルももちろん少なくないのです。(文/西澤寿樹)

※事例は、事実をもとに再構成してあります

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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