全長39.1キロの大半で沿線に田畑の目立つ里山的風景が広がり、東京近郊にあってのどかさの味わえる貴重な鉄道路線といえるだろう。

 路線後半の飯給(いたぶ)付近からは山あいに入り、トンネルや切り通しがアクセントに。終点を目前とした養老渓谷は渓谷ハイキングや温泉など沿線随一の観光地でもある。

 また、古い木造駅舎が点在することでも知られ、全18駅中10駅の駅舎が国の登録有形文化財に登録。そんな時代に取り残されたような小駅が連なる鉄路に、かつての国鉄を思わせるクリーム色と朱色に塗り分けられたディーゼルカーがコトコトと歩んでゆく様子は、まさに昔ながらの里山ローカル線の風景といえるのではないだろうか。

 なお、さきの台風や豪雨の影響を受け、いまだ一部区間での運休が続けられているが、12月初旬には全線で復旧する見込み。

 五井側の冬枯れ前の田畑からはじまり、次第に房総丘陵に分け入りながら色づく車窓。都心からの日帰りも容易な里山路線の秋には、格別の旅情を覚えるに違いない。

◯植村誠(うえむら・まこと)/国内外を問わず、鉄道をはじめのりものを楽しむ旅をテーマに取材・執筆中。近年は東南アジアを重点的に散策している。主な著書に『ワンテーマ指さし会話 韓国×鉄道』(情報センター出版局)、『ボートで東京湾を遊びつくす!』(情報センター出版局・共著)、『絶対この季節に乗りたい鉄道の旅』(東京書籍・共著)など。