■「相棒」はまもなく20年

 最後に「シャーロック」の話をもう少し。心に残った2話があり、これが「相棒風味」だったのだ。一つはとんでもないパワハラ野郎が出てくる「社会問題摘発物」。もう一つは戦後の貧しさが関係する「忘れてはならない歴史物」。そのようなテーマがありながら、面白い謎解きものに仕上がっている。それも、相棒風味。

 社会問題物は、第5話。パワハラ野郎の下で働かされた若手社員の悲劇を描いていた。圧巻は、母親を演じた若村麻由美さん。「シャーロック」は毎回、犯罪周りに豪華ゲストを配していてこれも「相棒」方式だが、若村さんは別格だった。

 母としての愛情、自分のキャリア、さまざまなものを結集して罪を犯す。終わってみれば、哀愁が残る若村さんの一人舞台。「相棒」の屈指の名作「ミス・グリーンの秘密」(season8、2009年)における草笛光子さんの演技を思い出した。

 歴史物は、子役が大活躍した7話。山城琉飛くんが孫で、祖父役に伊武雅刀さん。伊武さん演じる男は秘密を抱えていて、背景には戦後の貧しさがある。伊武さんはさすがの演技なのだが、私が引かれたのは山城くんの可愛い&達者な芝居。「相棒」には、中学生になった“子ども店長”こと加藤清史郎くんが出演した「BIRTHDAY」(season11、2013年)という超名作がある。山城くん、将来有望とみた。

「相棒」は現在、season18を放送中。土曜ワイド枠で「警視庁ふたりだけの特命係」が放送されたのが2000年だから、もうすぐ20年になる。ずっと高視聴率を維持しているのは、ドラマを支える視点が確かだからだろう。その視点こそが「社会問題摘発」だったり「忘れてはならない歴史」だったりするのだが、そこに名女優や名子役を配し、心に残る名作に仕上げている。だから信頼され、チャンネルを合わせる人が減らない。

「シャーロック」は、そこをちゃんと分析している。しかも「相棒」より若いバディにして、棲み分けもできている。だけど、どうも視聴率は下がっているらしい。ディーンさんのバイオリンのシーンなど、再考の余地はあるような気がするけど、どうかしらん。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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