府知事・大阪市長のダブル選で当選し、会見する松井一郎氏(左)と吉村洋文氏=2019年4月7日、大阪市中央区、水野義則撮影 (c)朝日新聞社
府知事・大阪市長のダブル選で当選し、会見する松井一郎氏(左)と吉村洋文氏=2019年4月7日、大阪市中央区、水野義則撮影 (c)朝日新聞社

 自民党でも立憲民主党でも公明党でもない、大阪維新の会「1強」体制が続く大阪。その政治手法の実像に迫るため取材を続けている朝日新聞大阪社会部が、『ポスト橋下の時代 大阪維新はなぜ強いのか』(朝日新聞出版)を出版した。20年秋から冬にかけて行われる見通しになった、大阪都構想の是非を問う住民投票までの大阪維新と公明の熾烈な攻防とは――。大阪社会部の行政担当次長として一連の取材のデスクワークを担ってきた林尚行(現・政治部次長)が、取材の一端を紹介する。(敬称略)

【会見で握手する松井一郎氏と公明党大阪府本部代表の佐藤茂樹氏はこちら】

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 2019年5月13日夜、東京-新大阪間を西に向かう新幹線の車内にいた私の携帯電話が鳴った。行政担当デスクを務める私はこの日、翌月に控えた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の打ち合わせのため、東京に日帰り出張。その帰りだった。発信元は大阪府庁担当キャップの池尻和生。大阪本社管内の行政・選挙取材の「現場隊長」のような役回りを務める中堅記者だ。

「公明が大阪都構想に賛成します」

 電話口の池尻は、やや興奮気味にこう切り出した。

「書けそうか」
「大丈夫です。書けます」

 端緒は、行政担当記者の一人がもたらした情報。これまで積み上げてきた取材の方向性と矛盾はなかった。

「わかった。準備を始めてくれ。関係者への裏取り取材も引き続き頼む」

 そう言って、私は電話を切った。

 当時、大阪では前月に行われた大阪府知事・大阪市長のダブル選と議会選で維新が大勝。15年以来2度目となる住民投票の実施に消極的だった公明が協力姿勢に転じ、住民投票の実現がほぼ確実視される情勢になっていた。では、前回否決された都構想は可決されるのか。大阪で底堅い支持層を持つ公明の態度次第で、一気に可否が決する可能性があった。そんな中での、池尻からの一報だった。

 電話を受けるため新幹線のデッキに移動していた私は、いったん自席に戻って頭の中で方針を整理。「朝刊1面のネタだ。どこまで強く書くか。そのための詰めの取材は……」。考えをまとめると再びデッキに出て、大阪社会部の朝刊当番デスクに電話をかけた。

 私と池尻のやりとりを踏まえ、すぐに大阪・中之島の本社ビル11階にある大阪社会部では、市役所担当キャップの増田勇介が原稿のとりまとめに着手した。池尻と二人三脚で一連の「都構想政局」を追いかけている記者だ。坂本純也、楢崎貴司、新田哲史、半田尚子、吉川喬といった行政担当記者たちが次々と本社に上がり、これまでの取材との整合性を洗い直すなどして情報の精度を高めていく。

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そして翌朝、朝日新聞の1面には…