MLBではアクティブロースターの登録日数が3シーズン分に達すると該当選手は年俸調停権を取得する。契約交渉がまとまらなかった場合は期限までに申請を行い、第三者による公聴会で来季年俸が決定される仕組みだ。なお、年俸額は必ず球団側の提示額か選手側の要求額かのどちらかとなり、折衷案などは取られない。

 もっとも、実際のところは調停申請までは100人を超えるものの、調停までもつれ込むのは毎年数人ほど。だいたいは調停申請によって得た公聴会までの期間で双方が歩み寄って契約となるケースが多い。だが、この制度があるおかげでメジャーデビューからほどなく大活躍した若手選手たちは、4年目から一気に年俸が跳ね上がるアメリカンドリームを実現できている。

 以前のコラムでも紹介したが、レッドソックスのムーキー・ベッツ外野手は、初めて調停権を得たオフに年俸が95万ドルから一気に11倍近い1050万ドルまで跳ね上がり、リーグMVPを獲得したうえにチームのワールドシリーズ制覇に貢献した翌年のオフには2000万ドルまで到達した。

 一方、NPBの年俸調停申請(正式名称は参稼報酬調停申請)は制度としては存在するものの、実質的にはほとんど機能していない。流れとしてはコミッショナーに調停申請して受理されると参稼報酬調停委員会が開かれ、球団からの聴取で契約金額が決定。選手側がこれを不服として契約しなかった場合は任意引退扱いとなる。

 だが、過去に調停申請されたケースは7件しかなく、任意引退までいった日本人選手は存在しない(外国人選手は元広島のアルフォンソ・ソリアーノらの例がある)。また球団提示額より増額となった選手は3人いたが、いずれも3年以内にトレードや移籍という結末を迎えている。

 このように、ひと口に年俸調停といってもMLBとNPBでは大きな違いがある。前者のそれは選手がFA取得まで最低保障年俸で球団に縛られるのを防ぐ狙いがあり、後者はより純粋に年俸額の妥当性を問うものだ。だが、FA権の取得までの期間とも絡めて、MLB式の年俸調停のような制度がNPBにあってもいいのではないだろうか。

 折しもNPBでは現在、出場機会の少ない選手を対象とした「現役ドラフト」の導入についての議論が行われている。いわゆる“飼い殺し”を防ぐ制度が実現するならば、金銭面でも選手側を救済できる仕組みの導入も検討できるはず。もちろん、球団によって資金力に差異がある以上、同じ成績を残しても別球団の選手が同額の年俸を手にするのは現実味がないが、選手が活躍に見合った年俸を手にしてこそ、プロ野球選手を目指す少年たちにも夢を与えることになるはずだ。(文・杉山貴宏)