ただ、捕手は一人前になるまで時間が必要なポジションである。現状、取り組んでいることを倉義和二軍バッテリーコーチは語る。

「一番大事にしているのはスローイングの正確性。肩が強いという天性のものがあるから、それを生かせるようにすべてを磨いている。捕球、握り方、ステップ、スロー。そういった一連の流れが正確でスピーディーにできるようになることが必要。肩が強いだけではプロで盗塁を刺すことは難しい」

 高校時代から強肩捕手としてならした中村であるが、プロでやっていくにはそれだけでは不十分で、正確性が重要になるという。

「正確性を出すためには、投げる際の右腕が体から離れないようにすること。特に盗塁された時は、送球が野手から離れないようにしたい。そうすれば走者へのタッチもしやすい。だから野手の前後、例えばワンバウンドとかになるのならやりやすい。しかし左右、野手から横に離れた場合はタッチまで時間を要する。投げる際、ヒジが下がったり、身体が開くと球は野手から離れたものになる。だから下半身をしっかり使って、できるだけ身体の近くで鋭く腕を振ることを身体で覚え込ませている」

 捕球、インサイドワーク、配球など捕手に必要なものはたくさんある。その中でまずは長所と言える強肩を生かすために、送球の正確性を磨き上げている。

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「広島には鈴木誠也というお手本がいる」

 東出コーチは中村のロールモデルとして鈴木の名前を口にした。広島生え抜きの4番打者は12年のドラフト2位で入団し、大きく飛躍を遂げた。今では広島の四番という枠に収まらず、日本代表のクリーンアップも任される。

「誠也も入団時は細かったけど、身体を大きくする必要性を感じた。練習量、食事、休養など、良いと思うことをすべて取り入れた。ここ数年で身体が大きくなり、ユニフォームの上からわかるくらい筋肉がすごい。広島や日本代表で結果を残せるのは当然。身体ができて練習をしっかりやれば、より強くて速いスイングができるようになる。打球も飛ぶし速くなるから、打ち損じても内野手の間を抜けたりするようになる。中村にも誠也を目標に大きな選手になって欲しい。身体ができたらそこからは一気に行くと思うよ」

 鈴木と比較できるほどの選手である。東出コーチの厳しいコメントは中村の明るい未来を信じているからにほかならない。ファンだけでなく、現場関係者にも大きな期待を抱かせる男。近年、稀に見る逸材であり、時間がかかっても球史に残るような大打者に育って欲しい。数年後「ああいう記事もあったな……」と笑って読み返せる時が、今から待ち遠しい。(文・山岡則夫)

●プロフィール
山岡則夫
1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍やホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を不定期に更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。