テレビドラマや映画などで、医者がカンファレンスを行っている場面を見たことがある人も多いでしょう。

 私たち医者がカンファレンスで話し合っている内容は、病気の診断と治療法です。

 診断がつかない病気に対して、血液検査の結果やCT画像などの臨床情報を共有し、医者同士が議論します。正しい診断が確実な治療につながります。

 診断と治療法を議論する時間がカンファレンスのメインになり、その患者さんの生活や価値観を確認し合って最適な治療を検討する時間はあまりとれません。全国を見回すと、そこまで話し合うカンファレンスは圧倒的に少ないと思います。

 医者が一生懸命に向き合うのは臨床データと患者さんの画像。「手術で見た脳の血管の走行は覚えている」と語ってくれた医者は、真面目で熱心にカンファレンスに参加していた結果でもあります。

 決して、カンファレンスがいけないと言っているわけではありません。医学情報は、一説では1カ月の間に約2倍になっていると言われ、医者が覚えなくてはいけない内容は指数関数的に増えています。カンファレンスの内容が、医学的内容に偏るのは当然のことです。

 それも踏まえて、患者さん個人をみるためには、まず多忙なスケジュールを解消することだと思います。じっくりと患者さん自身のことを考え話し合う時間をつくる必要があるのではないでしょうか。

 例えば、AIの進歩と医療現場への導入は医者の勤務時間を縮小できる可能性を秘めています。

 カンファレンスでの議論に、AIが導入されることで、より早く診断がつき、適切な治療法を見いだせる可能性があります。

 そうすることで、カンファレンスでの議論内容を病気のことだけでなく、患者さんの生活まで視野に入れた「病気も人間もみる内容」に変えることができるでしょう。

 もしかしたら、将来、カンファレンスに患者さんが参加することが当たり前になるかもしれません。これまで一般の方からすると難しかった医学の専門知識も、AIによる診断及び治療法の提案と専門家によるクオリティーチェックが入った状態では、患者さんも加わりやすいのではないでしょうか。

 AIが人間の仕事を代わりに行うことで、医療の現場が変わってくるのは確実です。あとは私たち医者が「どう変えるか」だと思います。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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