「桜を見る会」に参加した安倍晋三首相=2019年4月13日 (c)朝日新聞社
「桜を見る会」に参加した安倍晋三首相=2019年4月13日 (c)朝日新聞社

 安倍晋三首相主催の「桜を見る会」で、自民党所属の国会議員らに出席者の推薦枠があったことが問題になっている。野党は名簿の公開を求めているが、菅義偉官房長官は14日、記者会見で「名簿については、会の終了をもって、遅滞なく廃棄している」と説明。資料はすでに“隠ぺい済み”ということだ。

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 隠ぺいが疑われているのは、「桜を見る会」だけではない。政府・与党が今国会の最大の焦点と位置づけている日米貿易協定でも、隠ぺい疑惑が指摘されている。にもかかわらず、協定の承認案は15日に衆院外務委員会で可決され、19日に衆院本会議で採択される予定だ。なぜ、政府は隠ぺい工作に手を染めなければならなかったのか。その背景には、専門家から「交渉で負けた」と批判される協定の内容にあった。

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「日米貿易協定は『令和の不平等条約』です」

 こう話すのは、TPP(環太平洋経済連携協定)などの通商交渉で国際交渉官として参加した経験のある明治大の作山巧教授だ。日米貿易協定は、2017年にTPPを離脱した米国のトランプ大統領が安倍政権に求め、今年9月に最終合意に達した。交渉期間は、わずか半年。異例のスピード決着だった。

 安倍首相は「両国に利益をもたらすウィンウィンの合意」と強調したものの、その内容は過去の貿易協定と比べて似て非なるものだ。公式には、日本政府は関税撤廃率について「米国約92%、日本約84%」と発表している。ところが、日本の対米輸出額の約3割を占める自動車と自動車部品については関税撤廃の合意がなされていない。作山教授は言う。

「通商交渉は『ギブ・アンド・テイク』が基本で、日本が農産品でTPP並みに譲れば、米国から自動車などで譲歩を引き出さなければなりません。それが、今回は米国の譲歩はほとんどありません。TPPと日米貿易協定を関税撤廃率で比べると、日本は95%から84%に小幅の低下なのに、米国は100%から自動車などを除くと57%まで下がりました。とてもウィンウィンの協定とは言えず、ここまで完敗した交渉を国会で承認するなど、信じられないことです」

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安倍首相の強弁をきっかけに官僚が“隠ぺい”に奔走?