新システムでは料金に「お気持ち」を反映させられるとあり、冷戦状態にあった仏教会との間に歩み寄りが生じた。

「一年ほど前から、こちらから声をかけ、対話の機会を何度か持たせてもらってきました」と小野さん。

「お坊さん便」が提携する僧侶の数は現在1300人。増加傾向にあるが、宗派の顔色をうかがい「こっそり」とやっていたお坊さんが多かったという。そうした僧侶の声を耳にし「なんとかしたい」と考えていたという。「和解」が成立すると提携僧侶もオープンに活動が行えるというわけだ。

 新システムへの切り替えにあたり、クレジットカードでなくとも「請求書」によってコンビニなどでの支払いが可能となる「後払い」サービスを導入(株式会社ネットプロテクションズのシステムと提携)。名称も「おきもち後払い」とする。

 形式的にも「お気持ち」に近づくこうした変更によって、これまで猛反発していた仏教会側も矛を収める口実が得られるとの見方もある。DMMの新規参入で群雄割拠状態の葬祭業界にあって、仏教会との「和解」は提携僧侶の数を増やしていきたい「よりそう」としてもメリットは大きいはずだ。

■お坊さんとLINE

 そんなビジネス事情の勘繰りはさておき、説明を聞いていて驚いたのは、システム変更を可能した舞台裏に「お坊さんとIT」との親和性が関与していたことだ。

 従来の「お坊さん便」では、利用者から電話などで依頼を受けると、コールセンターのオペレーターが僧侶の手配を電話やファックスで行っていた。そのため手配されるお坊さんが確定するまで数時間を要し、日をまたぐことも少なくなかったという。新システムではその時間が劇的に短縮される。秘密兵器はLINEだ。

 じつはこの記事書いているわたしはLINEをやったことがない。使用者に聞いて、タクシーの無線配車みたいなものかとおもった。タクシー会社に電話すると近くの空車がやってくるイメージだ。

 これまでは利用者の電話を受けたオペレーターが、登録されている僧侶の中から「近く」のお寺を選び電話をかける。つながらないことや、予定が入っていてダメな場合は次。さらに次と何本も電話をかけていたが、そうした日程調整にともなう煩雑な手間が省ける。その効果は「百分の一以上の時間短縮」だという。すごい。

「よりそう」が行った提携僧侶へのアンケートでは、じつに74%がLINEを使用、スマートフォンも83%が携帯しているという結果が出た。これがシステム変更のカギとなったという。さらに「お坊さん便」では、システム向上のためにLINEの利用率を100%に近づけたい意向だ。となると、LINEに未加入の提携僧侶は自然と斡旋機会を失うことになる。ちなみに、依頼するお客さんについては「従来どおり電話の問い合わせを受けていく」という。

●朝山実(あさやま・じつ)/インタビューライター。1956年、兵庫県生まれ。著書に『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP社)
、『アフター・ザ・レッド 連合赤軍 兵士たちの40年』(角川書店)、『父の戒名をつけてみました』『お弔いの現場人ールポ 葬儀とその周辺を見にいく』(中央公論社)。