カメラを向けられることに抵抗感がある人が多いのは事実。顔をそむけたり、手をかざす人などを撮ることは控えたほうがいい(写真/PIXTA)
カメラを向けられることに抵抗感がある人が多いのは事実。顔をそむけたり、手をかざす人などを撮ることは控えたほうがいい(写真/PIXTA)
警察を呼ばれても決してあわてないこと。必要ならデータを見せて、やましい撮影はしていないことを堂々と主張すべきだ(写真/PIXTA)
警察を呼ばれても決してあわてないこと。必要ならデータを見せて、やましい撮影はしていないことを堂々と主張すべきだ(写真/PIXTA)
三平聡史(みひら・さとし)みずほ中央法律事務所代表弁護士。過去、本誌の「著作権と撮影マナー」に関する記事でも監修を担当。同事務所のホームページでも撮影と法律に関するコラムを執筆している
三平聡史(みひら・さとし)みずほ中央法律事務所代表弁護士。過去、本誌の「著作権と撮影マナー」に関する記事でも監修を担当。同事務所のホームページでも撮影と法律に関するコラムを執筆している

「警察を呼ぶ」「データを消せ」。カメラを手にして歩いているだけで不審者扱いもされかねない時代。路上スナップ撮影を怖いと思っている人は少なくありません。

 もしも実際にトラブルに直面したら? 回避策は?『アサヒカメラ11月号』では、「スナップは怖くない」と銘打ち、“いまさら聞けない”スナップ撮影の基本から、8人の写真家が明かす設定や心構えまでを72ページに渡り大特集。そのなかから、「路上撮影トラブルの実践的対応術」をお届けします。

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 スナップが撮りにくい時代になったと言われる。カメラを構えただけで不審者扱いされ、警察に通報されるケースもある。だが、正確な知識を持ち、しかるべきマナーを守っていれば、スナップは決して怖くない。もしトラブルになっても正しく対処すれば、まず大事にはならない。アンケートに寄せられた事例などを基に、弁護士に現場での実践的対応術を聞いた。

■現場トラブル01【実在しない「アサヒカメラのカメラマン」からの依頼】

「ご存じないかもしれませんが、アサヒカメラという雑誌でカメラマンをしています。撮影をさせてくれませんか」

 街中で女性にこんな言葉をかけて撮影を依頼している男性がいる、という情報が編集部に寄せられたのは今年6月のこと。男性は60~70代で、デパートの地下や駅構内などで女性に声をかけ、断ってもついてくるという。時には深夜1時過ぎに住宅街で声かけをされたこともあったようだ。恐怖を感じた女性は編集部の代表メールに通報し、事態が明らかになった。

 女性が渡されたという電話番号をネット検索すると、類似した多くの事例があることが判明。架空の特集企画をでっち上げたり、声をかけた女性の体を触ったりしていたことが明らかになった。

 編集部から当該の番号に電話をかけたが、「アサヒカメラですが●●さんですか」と聞いたとたんに「人違いです」とガチャ切り。最近では前編集長と同名の「ササキ」と名乗っているという。

 犯罪にもつながりかねない悪質なケースと判断し、10月初旬にツイッターなどの公式アカウントで注意喚起した。現在、男性は警察に逮捕され、編集部も捜査に協力している。

 この「犯罪行為」は極端な例だが、街中などスナップ撮影の現場ではトラブルが後を絶たない。昨今の肖像権やプライバシー権の意識の高まりとともに、「撮るほう」と「撮られるほう」の双方が神経をとがらせており、その意識がすれ違うと衝突が起こってしまう。

 だが意識が過敏になるあまり、一部では撮影者は必要以上に萎縮し、周囲は過剰な配慮を求めるという事態にもなっている。両者の「ずれ」を埋めるためには、まずはスナップの現場でどのような行為が「不快」とされており、それに対してどのような対応が求められているのかを知る必要がある。

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スナップ撮影の「適切なマナー」とは?