■成田凌さんをキャスティングした理由

片島:主演に成田さんをキャスティングしたのは、監督のなかで、ここだという何かがあったんですか? 初顔合わせだったか、成田さんが活動弁士の台詞のさわりをしゃべるのを聴いたときに内心、うまく弁士を演じられるのかなあと思ったんです。でも、いざカツベンのシーンを撮る段になって聴いたら、抜群にうまくなっていて、本当に驚きました。俊太郎になりきっていた。

周防:僕の映画って、役者が訓練しなければならないものが多いんですよ。でも、役者さんに預けると、彼らがちゃんと身につけてくれることが経験的に分かっているので、信頼しちゃっているんです。

 だから、今回のキャスティングのポイントは、「主人公として僕が好きになれそうかどうか」でした。オーディションでたくさんの若者に会って、おもしろい役者さんもいっぱいいましたけど、この映画の主人公として僕が好きになれそうなのは、成田さんでした。少しだけ迷ったのは、背が高すぎるという点でしたけど、そこは片島さんにカバーしてもらってね。

片島:竹中直人さん演じる館主が主人公に初めて会う場面で、「電信柱みたいな背ぇしやがって」っていう台詞を、急きょ入れさせてもらったんです。

周防:反対に、僕が無理を言って、加えてもらったシーンもありましたね。活動弁士自身が「映画を説明する」という自分の仕事に迷いを感じていて、その心情を吐露する場面を入れてほしい、とお願いしたんです。

片島:主人公が憧れる、山岡秋聲という弁士の台詞ですね。あのキャラクターは、話芸の神様と呼ばれた徳川夢声をモデルに考えました。有名な弁士ですが、実は大酒飲みで、舞台上で寝ていることもあったなんていう逸話も残っている人物です。映画を邪魔するような無駄な説明を嫌い、後年あまりしゃべらなくなったらしくて。

 監督の意見で加えた、「映画ってやつはなぁ、もうそれだけでできあがってる」という山岡の台詞も、徳川夢声が実際に書き残していた言葉から使わせてもらいました。

※「ポンと煙が出て人が消える… 無声映画時代のありえないくらいのアナログさの面白さ」につづく

周防正行(すお・まさゆき)
映画監督。『シコふんじゃった。』『Shall we ダンス?』『それでもボクはやってない』『終の信託』などの話題作を監督。『カツベン!』は5年ぶりの新作となる。

片島章三(かたしま・しょうぞう)
演出家・脚本家。周防監督作品にも多く関わり、映画『カツベン!』では脚本・監督補として作品を支えている。このたび、小説版『カツベン!』を執筆。