周防正行監督(右)と、脚本家の片島章三さん
周防正行監督(右)と、脚本家の片島章三さん

物語の舞台となる映画館前で、館主役の竹中直人さんと俊太郎が出会う (c)2019「カツベン!」製作委員会
物語の舞台となる映画館前で、館主役の竹中直人さんと俊太郎が出会う (c)2019「カツベン!」製作委員会

成田凌さんの堂々たる<カツベン>シーン。映画で描き切れなかったストーリーを加えた小説版『カツベン!』。朝日文庫より、絶賛発売中! 映画『カツベン!』は12月13日全国ロードショー! (c)2019「カツベン!」製作委員会
成田凌さんの堂々たる<カツベン>シーン。映画で描き切れなかったストーリーを加えた小説版『カツベン!』。朝日文庫より、絶賛発売中! 映画『カツベン!』は12月13日全国ロードショー! (c)2019「カツベン!」製作委員会

 今からおよそ100年前、映画が活動写真と呼ばれ、まだ音がなかったサイレントの時代、大活躍していた活動弁士。登場人物の台詞に声をあて、物語を説明しながら独自のしゃべりで観客を沸かせる、まさに暗闇のスーパースター。その人気ぶりは、映画俳優をしのぐものだったそうだ。

【成田凌さんの堂々たる「カツベン」シーンはこちら】

 そんな活動弁士「カツベン」たちを題材とした映画「カツベン!」(周防正行監督)が、まもなく公開となる。映画の脚本を手掛けた片島章三さんによる小説版『カツベン!』(朝日新聞出版)に収録された、周防監督との貴重な対談の一部を特別に公開する。

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■カツベンに出会って20年

片島:もともと、僕はチャップリンなどの無声映画が好きで、興味を持っていたんですけど、ある日、たまたま見たテレビ番組で、活動弁士のことを紹介していたんですね。番組のなかの1コーナーだったと思うんですが、無声映画の時代には、登場する人物の台詞に声をあてたり、物語を説明したりする活動弁士という人たちがいた、という話で。当時、彼らは映画監督やスター俳優よりも人気があって、お客さんたちも活動弁士を見るために劇場に足を運んでいたなんて、全然知らなかった。映画『カツベン!』でも描いたように、弁士たちは独自にストーリーをつくってしゃべっていたし、さらには、自分たちがしゃべりやすいように編集を変えさせるなんてこともあったらしい。となると、最終的に映画をつくっていたのは活動弁士なのかと思っちゃって、がぜん興味が湧きました。それが、この物語のきっかけですね。

 でも、すでに1990年代の後半でしたから、さすがにもう活動弁士つきの上映なんてやってないだろうなと思っていたら、鶯谷駅のすぐそばに「東京キネマ倶楽部」というキャバレーを改造した劇場があって、そこでやっていたんです。それで観にいってみたらほとんどお客さんもいなくて、半年後ぐらいにはこの映画館もなくなってしまうんですが(※「東京キネマ倶楽部」は、今もイベントスペースとしては営業中)。

周防:へーえ。でも、そこから、この映画のストーリーラインをいったいどうやって組み立てたの?

片島:戦後に大人気だったラジオドラマの『君の名は』が始まる時間になると、銭湯から人が消えた、なんてエピソードがありますよね。おそらく昔の活動写真って、それ以上の娯楽だったはずで、地方の村々に行って興行したら、それこそ村中の人たちがそこに集まってきて、村は空っぽになっていたんだろうなと思ったんです。

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大まかな筋は最初からあった