皮膚のできものでも、硬さ、動きやすさは診断で重要です。一般的に、動きにくいできものは、不規則に周りに広がっていることが多く悪性を疑います。

 皮膚科医にとって肌を触るということは、診断をするうえで重要な行為です。

 師匠が教えてくれた「肌を触る」理由には、もう一つ大事な意味があります。

 それは触られることで患者さんが安心するからです。「手当て」という言葉があります。病気やけがをした際、手を当てて治療することが語源になったとも言われています(諸説あります)。

 触られる相手にもよりますが、不安で診察室にきた患者さんは医者に触れられることで安心することもあるでしょう。

 患者さんに安心してもらう意味で、肌を触るというのは大事な診療行為でもあります。

 もちろん、医者に素手で触られることに抵抗がある患者さんもいます。そういう方のために「触りますがいいですか?」の一声は必要でしょう。

 ただ、患者さんが安心するからといってなんでもかんでも素手で触っていいわけではありません。

「スタンダード・プリコーション」という言葉をご存じでしょうか?

 スタンダード・プリコーションは、日本語で「標準予防策」といい、医療現場では広く知られた概念です。1985年のアメリカのCDC(国立疾病予防センター)が病院内の感染症対策としてユニバーサル・プリコーション(一般予防措置策)を提唱しました。1996年、これを拡大整理した予防策がスタンダード・プリコーションです。

「すべての患者の血液、体液、分泌物、嘔吐物、排泄物、創傷皮膚、粘膜などは、感染する危険性があるものとして取り扱わなければならない」という考え方です。

 皮膚科の患者さんでは小さなかき傷がある方も多く、スタンダード・プリコーションにのっとって診察すれば、じゅくじゅくした湿疹部位を素手で触ってはいけません。

 じゅくじゅくした傷の手当てをするとき、医療従事者は手袋をするのが原則です。患者さんにとっては、手袋をはめた手で触られると冷たい印象を受けるかもしれませんが、感染防御という意味で手袋は重要です。

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