YouTube個人チャンネル「フワちゃんTV/FUWACHAN TV」2019年10月時点の登録者数は36万人(写真はイメージ/Getty Images)
YouTube個人チャンネル「フワちゃんTV/FUWACHAN TV」2019年10月時点の登録者数は36万人(写真はイメージ/Getty Images)

 今から4年前、変わり者の芸人ばかりが出るというコンセプトのお笑いライブを見に行ったことがある。どの芸人も面白かったのだが、その中でひときわ印象に残る男女コンビがいた。

 ネタの内容はよく覚えていないのだが、野性的な雰囲気のギャルっぽい女性が「乳首、痛えよ!」というフレーズをひたすら何度も連呼していた。大人の女性が大声で叫ぶ「乳首」という単語が、不思議と下品でもなく、いやらしくもない。ただ、いい意味で「バカだな~」と安心して笑える感じがある。彼女は1人だけギャグ漫画の世界から抜け出てきたような異様なオーラを身にまとっていた。

 現場ではそれほどウケていなかったが、一緒にこのライブを見ていた業界関係者も「あのコンビは売れるかもしれない」と言っていた。私もその衝撃をTwitterに書き残したところ、その女性本人から「なんかよくわかんないけどめっちゃ褒められてんじゃね?」みたいな感じのリツイートが来た。彼女のタイムラインを覗いてみたところ、どの書き込みも期待を裏切らない軽薄さだった。

 何を隠そう、その女性芸人というのが現在絶賛大ブレーク中のフワちゃんである。彼女はかつて芝山大補と「SF世紀宇宙の子」というコンビで活動していた。だが、芝山の作るネタを的確に演じるための表現力が不足していたため、コンビとしての活動は行き詰まり、解散することになった。

 ピン芸人になったフワちゃんはYouTubeという新しい表現手段を見つけて、そこに徐々にのめり込んでいった。もともとInstagramで自ら加工した「おもしろバカ画像」をアップし続けていた彼女は、映像編集にも同じような楽しみを見出したのだ。明るさ、勢い、行動力、ファッションや映像のセンス――YouTubeの世界では、フワちゃんという人間の本来持っている強みが存分に生かされた。フォロワー数はどんどん増えていき、人気YouTuberの仲間入りを果たした。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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