ドラフト史上最もくじ運の悪い男として知られているのが、近鉄、日本ハム監督時代に通算0勝5敗の梨田昌孝氏。くじを外したばかりでなく、その選手が揃ってプロ入り後に伸び悩んだことから、“梨田の呪い”の都市伝説まで生まれている。巨人の原辰徳監督も08年に東海大相模の後輩・大田泰示(現日本ハム)を引き当てた以外は全敗の通算1勝8敗とくじ運に恵まれない。

 そんななかでも、通算成績は3勝7敗、本命1位の抽選は全敗ながら、外れ1位の抽選勝ちでは、無類の選手運の強さを誇るのが、前ヤクルト監督の小川淳司氏だ。

“初登板”の10年は、4球団競合の斎藤佑樹(早大)を外したあと、外れ1位で楽天と競合した塩見貴洋(八戸大)の抽選にも敗れ、「スカウトや球団に申し訳ない」と肩をすぼめた。ところが、外れ外れ1位でオリックスとの競合を制し、“抽選初勝利”で獲得した山田哲人(履正社)が計3度のトリプルスリーを達成するのだから、世の中何が幸いするかわからない。

 その後も小川氏は12年に藤浪晋太郎(大阪桐蔭)、13年に大瀬良大地(九州共立大)を立て続けに外し、2度目の監督に就任した17年にも7球団競合の清宮幸太郎(早稲田実)の抽選に敗れる。だが、外れ1位で巨人、楽天を制して通算3度目の抽選勝ち(2度目は13年の外れ1位・杉浦稔大)で獲得した村上宗隆(九州学院)が今季10代選手史上最多の36本塁打とブレイクしたのは、ご存じのとおり。

 くじを何度も外したからといって、必ずしも運が悪いと言いきれないのが、ドラフトの妙味でもある。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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