今年のドラフト会議ではどんなドラマが生まれるのか… (c)朝日新聞社
今年のドラフト会議ではどんなドラマが生まれるのか… (c)朝日新聞社

“令和の怪物”佐々木朗希(大船渡)、奥川恭伸(星稜)ら注目選手の存在もあり、本日17時から開始されるプロ野球ドラフト会議は大きな注目を集めている。今年も様々な人間ドラマが予想されるが、過去にも選手たちの運命を大きく変える出来事が起こっている。そこで今回は「プロ野球ドラフトB級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、ドラフト会議で起きた“B級ニュース”を振り返ってもらった。

【東尾修が指摘する星稜・奥川の欠点は…】

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 当日の朝、爪を切り過ぎたことが、抽選くじの際に思わぬ幸運を呼び込んだのが、1980年の巨人だ。

 この年の1番人気は、東海大の主砲・原辰徳。巨人、大洋の2球団を希望し、「僕はこの2つしか考えてません。ほかの指名はないと思っている。悪いほうには考えない」と最良の結果を信じて朗報を待った。

 だが、人気、実力を兼ね備えたアマ球界のトップスターとあって、広島と日本ハムも参戦。4球団競合の抽選となった。

 最初に大洋・土井淳監督、続いて日本ハム・三原脩球団代表がくじを引いたが、結果を先に言うと、2人とも外れだった。そして、巨人と広島が2分の1の確率で争うことになった。

 3番目にくじを引いた巨人・藤田元司監督は「日本シリーズに登板したとき以上に緊張する」と最大級のプレッシャーを感じながら、箱の一番奥にあった封筒を取ろうとしたが、朝、自宅で深爪をしたことが災いして、うまく掴むことができない。そこで仕方なく、その上にあった封筒を取り出して開けると、「選択確定」と記されてあった。

「無欲の強欲です。うれしいと同時に、大役を果たせてホッとした」と“けがの功名”に藤田監督は大感激。

 もし、深爪をすることなく、一番奥の封筒を取り出していたら、原は広島が引き当てていたことになる。はたして原が赤ヘル軍団の一員になったかどうか、想像するだけでも興味が尽きない。

 皮肉にも“爪の差”に泣いた広島は、外れ1位で左腕・川口和久(デュプロ)を指名。川口は“巨人キラー”として活躍したあと、95年、巨人にFA移籍。現役最終年の原とチームメートになった。これも不思議な因縁と言えるだろう。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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残り物に福がなかった星野監督