山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員
山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員
写真はイメージ(Getty Images)
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 日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「HPVワクチンの有効性」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

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 今月4日、ウォール・ストリート・ジャーナル日本版に「フィリピンでHIV感染急増、出会い系アプリ普及が背景」との記事が発表されました。

 記事では「フィリピンの新たなHIVの推定感染者数は2013~2018年に2倍以上に増え、特に若い男性に蔓延している。HIV推定感染者数が世界全体では減少傾向にある中、フィリピンでの感染拡大は際立っている。原因を特定するのは容易でなく、専門家が一定の臆測を交えるのは避けがたい。だが公衆衛生に関する活動家らは、主に出会い系アプリの普及が背景にあるとみている」と書かれていました。

 記事の中では、出会い系アプリで知り合った男性と初めて避妊具を使わずに性交渉した後にHIVに感染した可能性がある事例が紹介されていました。その人物は、「若者は最近、出会い系アプリをよく使い、そして性交渉をする」と証言していました。

 性行為によって感染する病気はHIVだけではありません。ヒトパピローマウイルス(以下、HPV)も、性行為を介して感染します。女性の8割、男性の半数が、一度はHPVに感染すると言われています。

 HPV ワクチンは、日本では2009年12月に承認され、2013年4月から定期接種が開始されました。しかしながら、2カ月後の6月には副反応の懸念から積極的勧奨は中止されてしまいました。

 今ではHPVワクチンの有効性と安全性についての多くの研究が発表され、HPVワクチンが子宮頸がんの前がん病変である高度異形成を抑制するという医学的コンセンサスは確立されました。しかしながら、2019年9月現在も日本における積極的勧奨中止の状況は変わっていません。この間、日本のメディアはHPVワクチンの危険性を強調する報道に偏っていたという報告や、産婦人科医であっても自分の娘にはHPVワクチンを勧めていなかったことなどが報告されているのです。

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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