1993年。ティレル・ヤマハ021に乗る片山右京の「ペダルカメラ」がTVで放送された。当時のティレルは3ペダル、つまりアクセル・ブレーキ・クラッチを採用していたが、コーナーごとに細かいアクセルワークやヒール・アンド・トウを駆使し鈴鹿を攻める様子が映し出されていた。現在は2ペダル。右足でアクセル、左足でブレーキという構造だが、アクセルワークの重要性は今でも全く変わらない。

 2012年。小林可夢偉がザウバー・フェラーリC31を3位に導き、22年ぶりに日本GPで日本人が表彰台に立った。サーキットからは万雷の拍手と可夢偉コールが沸き起こり、多くの人が喜び、笑い、涙を流した。

 また、鈴鹿サーキットレーシングスクールからは佐藤琢磨と山本左近のF1ドライバーを送り出し、またF2で優勝を果たした松下信治や国内レースで活躍する山本尚貴などを輩出するなど、ドライバー育成の面でも大きな成果を挙げている。

「鈴鹿は神が作ったコース」とベッテル、「日本は僕にとって特別な場所。鈴鹿に行くのはいつも楽しみにしている」とフェルスタッペンは語っている。まだバイクメーカーでしかなかったホンダが本気で作り上げたサーキットで、長い年月の間に様々なレースが繰り広げられ、先人たちの努力と汗と涙で編み込まれ、それが昇華して「聖地・鈴鹿」となったのだ。数え上げればキリがないほどの筋書きのないドラマが刻み込まれている。

 現地で観戦する方は是非ともスピードと音、歴史を存分に堪能してほしい。TVやネットで視聴する方もドライバーやチームの一挙手一投足に注目してほしい。F1をよく知っている人でも全く知らない人でも、鈴鹿サーキットは色々なものを見せてくれる。聖地は分け隔てなく、どんな人にも寛大で、モータースポーツの面白さと情熱、そして長い歴史を持っているのだから。

 ホンダにとってはホームサーキットであり、様々なアップデートをしてくる。それ以外も、メルセデスを筆頭にチームやドライバーもチャレンジにかかる。鈴鹿で速いことはステータスなのだ。

 聖地は人間を魅了してやまない。明日からどっぷり魅了されよう。(文・野村和司)