一方で、大学入学共通テストははじめに実施年度ありきで、そこに向かって邁進している。高校や大学からの意見を聞くが、反映させることはない。中身や日程を大きく変更する意思はなさそうだ。

 ちなみに、共通一次では民間試験はいっさい関わっていないが、大学入学共通テストでは民間試験に丸投げ的なところが見られる。なぜ、共通一次と大学入学共通テストでは、導入の仕方がこんなに違うのか。文科省OBで、京都造形芸術大の寺脇研教授は次のように話している。

「僕のころは、大臣の命令でも現場に反対が多ければ、時間をかけるように提言できた。でも政治主導のいまは、官邸に“20年までに”と言われたらやらざるをえない。現場の声を知っている役人のなかには、忸怩(じくじ)たる思いを抱えている人も少なくないと思います」(「週刊新潮」2019年9月26日号)

 大学入試において、文部省、文部科学省はこれまで「受験生保護」を大原則としてきた。保護するために、文科省は大学入学者選抜実施要項で、「個別学力検査及び大学入試センター試験において課す教科・科目の変更等が入学志願者の準備に大きな影響を及ぼす場合には、2年程度前には予告・公表する」と記している。

 いわゆる「2年前予告ルール」だ。ところが、大学入試に必要な英語の民間試験は来年4月から始まる。あと半年しかないのに、いまだ詳細が決まっていない。ルールに照らし合わせるなら、前代未聞の異常事態といえる。

 なるほど、政治主導は、官僚のルールを平気で破ってしまう。萩生田光一文科大臣は記者会見で新入試制度についてこう話している(10月1日)。

「高校生は、このシステムの実施を念頭に既に準備を進めており、システムは当初の予定通り2020年度から導入することとしますが、初年度はいわば『精度向上期間』、この精度は精密さを高めるための期間ということです。今後に向け、高校・大学関係者との間でも協議をし、より多くの大学がシステムを利用するとともに、受験生がより一層安心して、受験することができるように、システム利用の改善に取り組んでまいりたいと思います」(文科省ウェブサイト)

 高校からすれば、いささか火に油を注ぐような発言だった。初年度は「精度」がなく、欠陥だらけの入試なのか、受験生を実験台にする気か、と。

 大学入学共通テストが迷走している。最近になって高校、大学、予備校からの批判がいっそう厳しいものになった。ここは「受験生がより一層安心して、受験することができるように」、いったん立ち止まって見直すべきではないか。

 文科省は大学入試の歴史に学んでほしい。

(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫