掌蹠膿疱症は自然寛解が起きる皮膚病です。また、最初に説明したように、むし歯が原因ともなるため、むし歯の治療で掌蹠膿疱症が治るケースもあります。

 たばこをやめてむし歯を治して外用剤で治療して、その間にビオチンも飲んでいたら症状が改善したという場合、ビオチンが効いたのかどうかはわかりません。

「ビオチンが効く」とする十分な証拠がないまま、知識だけが広まってしまった感があります。

 では最新の掌蹠膿疱症の治療はどうなっているのでしょうか?

 2018年11月、生物学製剤であるトレムフィアが掌蹠膿疱症で保険承認されました。これまでの治療では効果のなかった掌蹠膿疱症に使える注射薬です。

 新薬トレムフィアは、残念ながらビオチンのときほど注目を集めていません。十分なエビデンスがありながら、実際に掌蹠膿疱症で困っている患者さんのところに情報として届いていないようです。

 医療情報のアップデートは一般の方には難しい。

 かつてはインターネットで病気を検索すると、体験談もしくは民間療法が検索上位にあがってきました。偏った内容や間違った医学情報ばかりが目につく状況でした。しかし、現在はGoogleもYahoo!も医療情報の検索システムが改善されています。

 医療機関や公共性の高いサイトが検索上位にきて、個人の体験談や民間療法の紹介は減ってきました。ご自身の病気に関しては、定期的にネット検索をしてみてもいいでしょう。もちろん、ネットの情報をそのままうのみにすることなく、必ず主治医に内容を確認することが大切です。一般論として正しい情報だとしても、それぞれの患者さんの状態によって異なる場合があります。

 掌蹠膿疱症のような皮膚科の病気を始め、医学は日々進歩し新しい治療法が開発されています。古い医療情報のまま立ち止まることなく、患者さん自身も知識をアップデートすることが必要ではないでしょうか。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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