「そして何よりすべての作品に通底しているのが、人間存在に対する強い肯定感です。この考え方が、浮き沈みの激しい音楽シーンの中で、長く受け入れられてきた、最も大きな要素であると私は考えております」

 竹内さん、鬼に金棒だな。そう思った。優秀なマーケッターがいれば、生産に当たってブレずにすむ。「うちの会社が作る商品って、こうだよね」と確認しながら、商品を作る。その拠り所を可視化してくれるからだ。しかもそのすご腕マーケッターが「売れる根底にあるのは、あなたの感性だ」と言ってくれている。自信を持って、進んでいける。

 山下さんの解説の後、竹内さんは年齢と共に訪れた心境の変化を語った。30代、40代の時は無我夢中で、「次」のことを考えていた。50代を過ぎ、「こんなことがしたい」と思えることが、とても幸運なのだと気づいた。60歳になってからは、瞬間瞬間が愛おしいと思えるようになった、と。

 2007年に発表した「人生の扉」という曲がかかった。51歳になって桜を見て、「あと何回、この桜を見るのかな」と思う自分がいることに気づき、まっすぐに表現したと竹内さん。年齢を重ねることを肯定する「応援歌」だった。

 サビは英語だ。「I say it’s fun to be 20 You say it’s great to be 30」から始まる。この調子で、40歳は「lovely」、50歳は「nice」、60歳は「fine」、70歳は「all right」、80歳は「still good」と続き、90歳も「maybe live」と予想した。その上で、弱っていくことは「sad」、年をとること は「hard」で、人生は「no meaning」って言うけれど、と歌って、こう締めくくる。「But I still belive it’s worth living」

 聴き終わり、「ノーブレスオブリージュ」という言葉が頭に浮かんだ。フランス語が語源で、「高い身分の者が果たす、それに相応した責任・義務」などと解説される。竹内さんという恵まれた人生を送ってきた人が、相応の責任・義務として、高齢者(とその予備軍)を励ましてくれている。そう感じたのだ。

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「75歳くらいまでは、歌っていたい」