■前田が発した伝説の名言

 そんなチーム優先主義を象徴したのが、第3回総選挙で前田が発したあの名言だ。

「もちろん、私のことが嫌いな方もいると思います。ひとつだけ、お願いがあります。私のことは嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないでください」

 これをとっかかりにして、批評家の濱野智史は『前田敦子はキリストを超えた』という本を書き、ものまねをしたキンタロー。は一発屋として一世を風靡した。実際、AKB史上最大の名場面であり、その世界観を世に示したともいえる。

 が、もうひとつ重要なのは、こういう発言をしながらも、センターとして輝き続けた前田の強さだ。それは女優、とりわけ「主演女優」としての適性にもつながっている。チームプレーである映画やドラマで主役を張るには、協調性と自我の両立が必要で、彼女はそれを高いレベルで実現できる人なのである。

 というわけで、AKBが将来、どれくらいの伝説になるかは、彼女の活躍にもかかっている。はたして、おニャン子が輩出できなかった本格的女優として大成できるのか。主役を続けるのも大変だし、その答えが出るのはずっと先のことだろうが、前田敦子にとって「主演女優」が天職であるのは間違いない。

宝泉薫(ほうせん・かおる)/1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など。

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宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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