その人が病気になってもその人らしく毎日を過ごせるように、手助けできるのであれば手助けするのが、その人のためだと、今の私は思っています。

 自分の不安を押し付けることと、相手を思うことは違います。

「最悪を想定し、最善を尽くす」という有名な言葉があります。もともとは、イギリス首相ベンジャミン・ディズレーリが残した言葉 I am prepared for the worst, but hope for the best.(私は最悪の事態に備える。しかし、最良の事態を期待する)が変化したものと言われています。

 奇跡にかけなくとも、希望は持てます。現実的に何ができるのか、専門家でなくとも考えられることはあります。

 私は医師です。なので、生きている時間を幸せに過ごすために、患者さんには医学という専門的な知識を使います。

「医療に、奇跡は起きない」

 診察室でこの言葉を患者さんに言うことは決してありません。でも、「奇跡を信じましょう」とも言いません。なぜなら、日本の医療の現場では、奇跡という言葉の先にはしばしばニセ医学が待ち構えているから。

 今を幸せに生きるために、最善を尽くす。私にとっての最善ではなく、心配する相手にとっての最善が何かを考える。

 その人を信じて黙って待つのが最善ということだってあります。

 仲のよい大切な友人が今、闘病生活を送っています。一緒に仕事を頑張ってきた仲間であり、ライバルであり、親友でもあります。彼がこの先、もっと偉くなったときのために、一緒に写ったたくさんの写真とちょっとのかわいい弱みを、私は大事にしまっています。

 私は彼の強さを信じています。だから、これまでと違って、静かに彼を応援したいと思っています。

 次の週末、フランスの学会で買ったおいしいチョコをもって遊びにいく予定です。甘い物好き同士、お互い楽しい時間が過ごせますように。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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