もう息子は30代後半で、いまだ独身です。数年前に「結婚しないの?」と聞いたら、「よく言うよ」と蒸し返されました。まだあの時のことを許していないのかもしれません。

 手紙を捨てたことを、悪いことをしたのかもしれないという気持ちもありますが、正直なところ、それで結果はまた勉強もするようになって大学もうかったじゃないかと、やっぱりよかったのだという気持ちのほうがおおきいです。一時の恋愛で人生をだめにしないようにと、息子のためにと親心でしたことがそんなに恨まれることでしょうか。なんで還暦も過ぎていつまでもこのことで気に病まないといけないのかと情けなく思うのです。

【鴻上さんの答え】
 みどりさん。ずっと気に病んでいるんですね。息子さんはもう30代後半ですから、20年近くですね。

 みどりさんは、手紙を捨てたことは、「やっぱりよかったのだという気持ちのほうがおおきい」のですよね。自分ではよかったと思ったことをしたのに、息子さんが全然理解してくれないことが納得できないし、悲しいのですよね。

 息子さんは当時高校生で判断力が未熟だから、私が判断しないといけない、それが親の務めだと思ったんですよね。

 みどりさんは、「息子のことを思って」いれば「ポストにあった息子の彼女からの手紙を読んで捨てる」ことも許されると考える親なんですね。

 世の中には、「息子のことを思って」いても「ポストにあった息子の彼女からの手紙を読んで捨てる」ことはしてはいけないと考える親もいます。

 どちらが正しいと断言することはあまり意味がないでしょう。正しいか間違っているかではなく、自分が親の立場になったらどちらを選ぶか、だと思います。

 それは、親として、「どこまで子供の立場を尊重するか」ということでしょう。

 僕にも子供がいますが、僕は子供が、どんなに危ない恋愛をしていると見えても、子供の手紙を勝手に読んで捨てることはないと思っています。それは親であっても、人間としてやってはいけないことだと思っているからです。子供の日記を勝手に読むとか、引き出しを勝手に開ける、なんてこともやってはいけないと思っています。もちろん、見守っていて、ハラハラドキドキはすると思いますが、なんとか我慢しようと思っています。

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どうであっても子供にとってはたまったもんじゃない