このように、帯同ドクターには現地に着く前から、準備しておくべきことがたくさんあります。

 そして、試合会場での帯同ドクターの仕事としては、基本的に選手がけがをしないように、そして最高のパフォーマンスが発揮できるように全力でサポートします。試合中は、帯同ドクターは選手のプレーを間近で見守り、万が一、試合中にけがをした際にはすぐに選手のもとに駆けつけ、けがの状態を診断します。そして、「競技を続けてよい」か「否」かを帯同ドクターはその場ですぐに判断しなければなりません。

 たとえ選手や監督が強くプレー続行を望もうとも、選手のからだを第一に考えて「NO」と言える勇気も必要です。チームの勝敗や選手生命に関わる決断を迫られる帯同ドクターの仕事は、責任が重く、また常日頃からの選手や監督たちとの厚い信頼関係がなければ務まりません。

 現地で治療が必要になったときには、帯同ドクターがさまざまな交渉をしたり治療について外国人ドクターと外国語でやり取りしたりします。帯同ドクターには高い語学力と交渉力が必要なのです。国によって法律上、衛生上の問題があるため、帯同ドクター自身が治療をするかどうかについてはケース・バイ・ケースです。

 スポーツドクターは、自分自身がとにかくスポーツ好きな人が多く、選手たちと一体となって現場で活躍できる帯同スポーツドクターになりたいと希望する人はたくさんいます。実際にどのように帯同スポーツドクターが選ばれるのでしょうか。

 その選出方法は、それぞれの競技団体により異なります。日本サッカー協会(JFA)の場合を例に挙げてみると、JFAに所属する専属医師の中から帯同スポーツドクターが派遣されています。JFAの場合、サッカーの競技の知識とスポーツ医学に関する知識が不可欠になるため、スポーツドクターの資格があることを専属医師になるための条件としています。

 JFAには、日本代表、日本女子(なでしこジャパン)代表、U-18日本代表(18歳以下)代表など、いくつかのカテゴリーに、それぞれ3人ずつの専属スポーツドクターがいます。そして、各カテゴリーがおこなう試合、合宿、海外遠征などの1年間の活動予定に合わせて、3人のスポーツドクターのうちの1人が必ず帯同できるようにローテーションを組んでいます。

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競技団体専属のスポーツドクターに求められるものは?