また、体重を軽くするために、鳥は水をあまり飲まず、おしっこをしません。おしっこには、水を排出するだけでなく、いらなくなった老廃物を溶かして捨てる役割があります。とくにタンパク質が分解されて生じたアンモニアは有毒なので、人間をはじめとした哺乳類では、アンモニアを尿素に変えておしっこに溶かして捨てます。ところが、鳥は溶かす先のおしっこがないので、より複雑な固体の尿酸にまで変化させてアンモニアを無毒化しています。鳥のフンが白いのは、その尿酸の色です。言いかえれば、フンをするときにおしっこの成分も一緒に出ているのです。

 鳥がいかに苦労しているかがわかってきたところで、人間がどうしたら飛べるかを考えましょう。飛べる鳥の中でもっとも大きなアンデスコンドルは、体重が約10キロ、翼の長さは両翼で約3メートルあります。その比率で考えたら、体重が50キロの人が空を飛ぶには、少なくとも15メートルの翼が必要でしょう。翼にも重さがあるうえ、翼を羽ばたかせるには、強力な胸の筋力が必要です。しかし、人間の胸の筋肉は少なく、そんな大きな翼は動かせません。また、使わないときにその15メートルもの翼をどのように格納しておくのでしょうか。不便でしょうがないですね。

 つまり、人間の体は飛ぶことを想定してできておらず、たとえ飛べるように人体改造しても、きっとつらい人生が待っているでしょう。

 でも、技術の力を借りれば何とかなるかもしれません。ひとつアイデアがあります。羽ばたくのはあきらめて、ムササビやモモンガのように滑空するのです。パラシュートのような膜を背負って山から飛べば、けっこうな長時間、空中浮遊が楽しめるはずです。それを確実にした機器がもう開発されています。ハンググライダーです。組み立て、折り畳みが可能なので、手軽に使え、少しの練習で大空を滑空できます。

 別の方法もあります。航空機は羽ばたいて空を飛んでいるのではないですよね。ジェットエンジンで空気を噴出して飛んでいます。それを個人で使えれば、ひとりで自由に空を飛べるのです。最近では背中に背負えるジェットエンジンが数百万円で売り出されています。もう十数年もすれば軽自動車を買うよりも安くなるかもしれません。期待して待っていましょうね。

【今回の結論】「飛ぶ能力」は人間が生き抜くのに貢献しないので、もはや人間には進化しない。でも、人間は生存だけでなく、楽しみをも追求する生き物なので、空を自由に飛べるハイテク技術を進歩させつづけている

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石川幹人

石川幹人

石川幹人(いしかわ・まさと)/明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。東京工業大学理学部応用物理学科卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知情報論及び科学基礎論。2013年に国際生命情報科学会賞、15年に科学技術社会論学会実践賞などを受賞。「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。著書多数

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