他にもジュースの入ったコップに氷が入り、波紋が広がるカットがあるが、実はこれ、波紋の部分はコップ内を映したものではない。大きな水槽や桶、風呂にジュースを入れライトで影をつくり、波紋の広がりだけをアップで撮影し、コップが写っている画像の直後にその画面を差し込んで、さもコップの中で波紋が広がっているように見せているのだ。

 また、スープやみそ汁の具材はそのままだとお椀の底に沈んでしまうため、撮影時には小さな網をスープ皿やお椀に入れ、その上に具材を置くことで、表面すれすれに浮いているように撮影する。具材が主役だけに、どんな具がどういう切り方で、どのくらい入っているのかをわからせないといけないからだ。

 他にもいろいろある。パン・ケーキの撮影では、時間が経つと何段にも重ねたケーキから空気が抜け、重さもあるためへたってしぼんでしまう。そのため、ケーキとケーキの間に丸い板を入れておく。そうすることで、出来立ての状態を維持できるのだ。

 ラーメンの麺を立ち上げるシーンで、箸から1本1本ストレートに並んでいる場面を見た方は多いだろう。しかし、箸でスープのなかにある麺をたぐり寄せ、そこから持ち上げるという連続したシーンを見たことはないはずだ。テレビ撮影では、先に箸で持ち上げた麺を絡まないように別の箸やフォークで整えておき、スープのなかに戻し入れておき、それをすくい上げる場面だけを撮影しているからだ。さらにライティングやレフ板(白い板で光を反射させ、影をなくす)を駆使することで、ツルツルにてかったこだわり麺を作り上げている。

 断っておくが、すべてがこういった事例というわけではない。ただ、こういったさまざまな手法をメディア業界では、写真や映像の輝きを撮るための「やらせ」とはいわずに「演出」と呼んでいる。

 食に対する一瞬の美味しさをビジュアルで届けるために、こういった「演出」がなくなることはないだろう。一方では、その「演出」を批判する人が居るように、行き過ぎれば「ヤラセ」と呼ばれても致し方ない側面を併せ持つのも確かだ。それでもなくならないと思うのは、実はこの「演出」をやめられない大きな理由があるからだ。

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「演出」をやめられない理由とは?