確かにフェルスタッペンは予選後に「マシンの感触は悪くなかったが、グリップが足りなかった」とコメントし、それは決勝レースでも「パワーをくれ!」とチームに無線で伝えていた。しかし、思うようにマシンが動かない中でも結果は付いてきた。終盤はハミルトンに追い上げられたが、どうにか凌いで「一つポジションを上げて表彰台に立てたのは嬉しい」と笑顔でコメントした。

 またガスリーの3.3は飛び抜けて低いが、最終的には7位ノリスに0.778秒差遅れで、9位ルノーのニコ・ヒュルケンベルグの5.6のスコアに対して、1.171秒差をつけて8位入賞をしている。タイヤ戦略の成功もあるだろうが、コーナリング関係のスコアは1.8と「全く頑張らずに」走ったのだ。ガスリーは「レースを楽しむことができた。セーフティーカーのタイミングが悪かったが、終盤はとてもエキサイティングだった」とレース後に語っている。

 マシンのセットアップが決まらないのに、ある程度の成績を挙げられるのは『ホンダとレッドブル陣営の信頼関係から生まれたパッケージ』に要因があるのではないだろうか。今のF1はパワーユニット(PU)と車体とのパッケージが重要だ。PUが強いだけでは速く走れないし、逆もまた然りである。前半戦のフェラーリはパワフルなのに結果が出ず、メルセデスが圧倒的だったのは全体的なパッケージの差によるものだっただろう。ここ数戦フェラーリが復調したのはパッケージが機能し始めたからであり、それによりマシン性能をより多く引き出して3連勝を飾ったのだろう。逆にメルセデスが停滞を始めたのは、パッケージ性能が相対的に下がったとも言えるかもしれない。

 一概にPU性能の序列を評価はできないが、フェラーリとルノーはパワー、メルセデスはバランス、ホンダは信頼性とドライバビリティ(運転のしやすさ)という性格だ。マクラーレンとのジョイント時代に信頼性に苦しんだホンダは現在の大前提として壊れないこと、その次にドライバビリティ、パワーという優先順位なのだろう。レッドブル・ホンダが初優勝を遂げたオーストリアGPでは「エンジンモード11・ポジション5」という指示をフェルスタッペンに出した。これは『壊れやすくなるが、パワーを大きく引き出す』というもの。オーストリアはレッドブルのホームでもあり、是が非でも優勝が欲しいからこそ出した、今季唯一のホンダの攻めの指示だった。

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ホンダが慎重な理由