■おわりに……快楽を共有しつつ健康な生活を過ごす

 長かった本連載もこれで終わりである。

 ワインは歴史の古い飲み物だ。実に多くのことがワインについて語られてきた。ゲーテ、デュマ、ヘミングウェイ、ユーゴー、永井荷風、開高健。人はワインを飲むと、ワインについて語らないではいられない。

 ぼくもまた例外ではない。ワインについて語りたくなってしまう。しかし、多くの先人があまりに多くのことをワインについて語ってきた。もうあまり新しいことは口にできなそうだ。

 ただし、ぼくは感染症が専門の医者だ。発酵という微生物を使ったワイン造りと、ワインがもたらす健康効果については、ヘミングウェイや荷風が口にしなかったようなことを口にできるのでは。そんなふうに考えてみた。

 ぼくは患者さんにいろいろな生活指導をする。ワインやその他のお酒について、どういうアドバイスをしたらよいか、きちんと勉強する上で本書の執筆は役に立った。でも、それはそれとしてワインについていろいろ調べるのはワインラバーの一人として大いに快楽だった。

 みなさんもぜひ、この快楽を共有しつつ、かつ健康な生活を過ごせるよう、正しい医療情報の吟味ができるようになっていただきたいと思う。本書がそのお役に立てるのでしたらこの上ない幸いです。

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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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