NICUでは、医療機器の作動音やアラーム音、医療者の声や足音など様々な音が聞こえてきますから、一般の家の環境とは全く違います。また、NICUに入る赤ちゃんは、小さく生まれたり早産だったりする子たちですから、この研究結果をそのまますべての一般のご家庭に当てはめることができるかはわかりません。

 それでも、生まれたときの週数が36週をすぎると、ママの声を聞いたときに目が覚めやすくなるというのは興味深い結果です。生まれたばかりの赤ちゃんでも、ママやパパの声はよく聞いているから話しかけてあげて、と言われることがあります。大人の声が聞こえると、よく聞こうとして目が覚めてくるのかもしれません。

 他にも、大人が子守唄を歌ったときにNICUの赤ちゃんがどんな反応をするか調べた研究もあります(※2)。この研究では32週以降の早産で生まれた赤ちゃんが対象でした。子守唄を歌うとの赤ちゃんの心拍数は下がる一方で、赤ちゃんの活動度は、歌っている間上がることがわかりました。子守唄は赤ちゃんを落ち着かせてあげる効果はありそうですが、歌っている間は、覚醒させる働きもあるようです。

 一方、早く生まれた赤ちゃんでは、睡眠への影響はありませんでしたが、ママパパや大人の声はちゃんと聞いているようです。別の研究では、NICUでの大人の会話する言葉の数が多いほど、そこにいた赤ちゃんが7カ月・1歳半になったときの言葉の発達が良いことがわかっています。(※3)

 早く生まれた赤ちゃんでも、そうでない赤ちゃんでも、積極的に話しかけたり歌いかけてあげたりするのは良いことだと思います。ただし、赤ちゃんを静かに寝かせたいときにママの声が聞こえると、赤ちゃんは寝づらくなってしまう可能性があります。泣いている赤ちゃんを落ち着かせるには、声かけや歌いかけは良い方法だと思いますが、赤ちゃんが落ち着いて寝ようとしているときは、あまり話しかけず、静かに見守ってあげるのが良さそうです。

(※1)Shellhaas RA, Burns JW, Barks JDE, Hassan F, Chervin RD. Maternal Voice and Infant Sleep in the Neonatal Intensive Care Unit. Pediatrics. 2019;144(3).
(※2)Loewy J, Stewart K, Dassler AM, Telsey A, Homel P. The effects of music therapy on vital signs, feeding, and sleep in premature infants. Pediatrics. 2013;131(5):902-18.
(※3)Caskey M, Stephens B, Tucker R, Vohr B. Adult talk in the NICU with preterm infants and developmental outcomes. Pediatrics. 2014;133(3):e578-84.

著者プロフィールを見る
森田麻里子

森田麻里子

森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産し、19年9月より昭和大学病院附属東病院睡眠医療センターにて非常勤勤務。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表

森田麻里子の記事一覧はこちら