つまり、2人で一瓶飲み干すくらいが適正量、というわけだ。デートのときには参考にしてほしい。

 紀元前375年ごろに書かれたといわれるエウブロスの記載が面白い。「節制を目的として三つの大杯にワインを調合する。その一つは健康のためで、みながまずそれを飲み干す。二番目の杯は愛と喜びのため、そして三番目のそれは眠りのためである。これを飲んでしまうと、賢明なお客は帰宅する。四杯目はわれらのものではなく暴力の手にあり、五杯目には大騒ぎをし、六杯目には酔っ払う。七杯目はけんか沙汰、八杯目には警官のお出ましだ。九杯目には怒りっぽくなり、十杯目には気が高ぶって家具を投げつけることになる」(ヒュー・ジョンソン『ワイン物語』より)。

 なるほど、ここでも三杯が適正、というわけだ。

 ぼくとしては健康のため、で終わらずに「愛と喜び」とか「眠り」を効能に加えているのが素晴らしいと思う。こういうのもわれわれ医療の目指すアウトカムに加えるべきなんじゃないかなあ。

 前述のKnottらの研究が示唆するところは、週10単位未満のアルコール摂取なら健康によい(かも)というものだった。1日あたり1.4単位。ワインだとだいたい286mLくらい。ボトル3分の1ちょっと。伝統的なワインの適正量「三杯」にかなり近いものだと思う。エウブロスの時代から、わりと皆、わかっていたんですかね。

 週5単位未満がよい、というWoodらの研究であれば(前掲)、ワイン1杯くらいですか。もっとも、KnottらにしてもWoodらにしても、こうした研究は「アルコール」の研究であり、「ワイン」を調べたものではないのだけれど。

 適切な「ワイン」の量は、どのへんか。まだまだ研究が必要みたいである。

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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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