■過去には松岡修造や北島康介

 こうしたコミュニケーション活動は必要だし、ひとつひとつのメッセージには決意や誇りが満ちあふれており胸を打つ。ただ、生活者が“自分ごと化”して共感するにはテーマがいささか壮大な向きもあり、具体的なアクションを想像しにくいのではないだろうか。テレビCMはじっくりと“専念視聴”するものではなく、“ながら視聴”されることが大半だ。テレビ番組の合間にリラックスした状態で不意に接触するため、難解な言葉や“左脳的”なメッセージはなかなか受け入れられにくい。さらには「東京2020大会」という同テーマで複数のスポンサー企業がCMを制作するため、視聴者からすると差異を認識しづらいという点も企業を悩ませているように思う。

 時代背景も開催国もさまざまだが、これまでのオリンピック・パラリンピック関連で高い支持を得たCMには、2012年のロンドン大会時にオンエアされたアサヒビール『ジャパンゴールド』や日本コカ・コーラ『アクエリアス』などがある。ジャパンゴールドは大会に合わせて期間限定で販売された“応援専用新ジャンル”で、CMには松岡修造を起用した。羽織袴に金色のたすきとはちまきを身につけた松岡が、応援団を率いて「ジャパーンゴールド!」という掛け声とともにロンドン市内を行進するもの。松岡の熱い応援につられて「オリンピックを見る気になった」「ともに応援したい!!」などと参加意識の高まりを感じさせる感想が多く寄せられた。アクエリアスは北島康介がハンデをつけて子どもたちと平泳ぎのスピードを競う内容で「観るより、やるほうが超楽しい。」のコピーでスポーツの持つ根源的な楽しさや喜びを映した。

 当時とは状況も日本の役割も異なるためCMの表現内容の違いを比較し論じるのはナンセンスだが、広告に限らず「正しい」よりも「楽しい」が人を動かすのはひとつの真実だろう。

●CM総合研究所/1984年設立。「好感は行動の前提」をテーマに、生活者の「好き」のメカニズム解明に挑戦し続けている。平成元年から毎月実施しているCM好感度調査をもとに、テレビCMを通じて消費者マインドの動きを観測・分析しているほか、広告主である企業へダイレクトにコンサルティングを行い、広告効果の最大化および経済活性化の一助となることを目指す。