この数カ月後、レバノンの約300人のシェフがベイルート東側にあるファナール村に集まって、今度は11トンものフムスを作ったのです。イスラエルの記録を破りました。ついでにファラフェルというサイドディッシュとして人気がある料理も作ってしまいました。ひよこ豆をすりつぶして、玉ねぎ、にんにく、スパイスなどで味付けして油でカリッと揚げた団子です。これを同時になんと5トンも作りました。

 フムスをめぐる競争は国家間のプライドだけでなく、経済的利潤をもたらすので各国はその権益に敏感です。これはフムスの世界成長市場拡大と連動しています。フムスという名前がついているだけの食べ物でも同じでしょう。レバノンの産業協会は、仮にほかの国がフムスという名のサラダを販売していたら国際法廷に訴えると宣言しています。

 レバノン製、イスラエル製、パレスチナ製とうたうフムスのラベルは、高級ブランデーであるコニャックがフランスでしか作られていないとフランス政府が主張しているのに似ています。同じようにスコッチウイスキーがスコットランドだけで醸造されている。日本政府が日本酒とみそが日本国内でだけで生産されているものを指すという決定をしたということと同じですね。

 残念なことに食べ物は協力ではなく論争の元になっています。いつの日か、イスラエル人とパレスチナ人の間で平和交渉が進み、お互いが同じテーブルに座り、大皿のフムスをシェアする日が来ることを願っています。

 日本では、レバノンやイスラエルレストランでフムスを見つけることできます。京都で学生時代にホームシックになったときは、京阪出町柳駅近くの小さなイスラエルレストラン「ファラフェル・ガーデン」に行っていました。今ではたくさんのお店でフムスを食べることができます。ぜひ、試してください。

フムスとは:
『フムス 豆のペーストレシピ70』(佐藤わか子著、朝日新聞出版)のレシピ本によると、カロリーは100グラム当たり166キロカロリーで白米とあまり変わりませんが、オリーブオイルやにんにくなど栄養価の高い食材を使っているので、美容や健康にも効果的で、腹持ちもいいです。ダイエットフードとしても話題です。この本には基本的な作り方と応用のレシピが70種類もあります。興味がある人は読んでみてください。

○Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。07年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。

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Nissim Otmazgin

Nissim Otmazgin

〇Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授。トルーマン研究所所長を経て、同大学人文学部長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年ヘブライ大学にて政治学および東アジア地域学を修了。2007年、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に贈られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。2012年、エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。

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