皮脂が失われた表皮にドライヤーの熱風を吹きかければ、バリア機能が失われた表皮は当然ダメージを受けます。すると、表皮の下の真皮にも悪影響が及び、コラーゲンを生み出す幹細胞が死滅してしまうのです。表皮も真皮も薄くなって土台が崩れた状態では、毛包も上手く働くことができないでしょう。発毛サイクルが短くなって薄毛につながる可能性が高くなります。

 私が患者さんに真っ先に勧めているのは、肌と同じように頭皮を守る習慣です。私自身が実践しているのが「お湯洗い」です。シャンプーを使用せずに「お湯で洗い流す」だけにします。夏場などで皮脂が気になるときには、界面活性剤を含まない固形石鹸を手で泡立てて、やさしく頭皮をなでるように洗います。髪の毛にコンディショナーを使用しても構いませんが、頭皮になるべく触れないように、きちんと流すように心掛けましょう。また、ドライヤーは使用せずに髪をとかし、タオルで髪をそっとなでるように自然乾燥にすると頭皮の乾燥を防ぐことにつながります。

 でも、女性はパーマなどやカラーリングなどでヘアスタイルも楽しむ方が多いので、「お湯だけ洗い」「ドライヤー不使用」は厳しいようです。薄毛の悩みを解消するのであれば、頭皮に負担のかかるパーマやカラーリングなどは避けましょう。初めは抵抗感を持つ方が多い習慣ですが、2週間から1か月も経つ頃には「慣れました」といわれます。

 頭皮以外の肌を守るためにも、ボディーシャンプーは使用せずにお湯で洗い流すか固形石鹸で洗い、入浴後に保湿剤を顔から全身に使うのが基本。肌を守るには保湿と紫外線防止が最も重要だからです。でも、頭皮はもともと皮脂が多く保湿剤を使うと髪がべたべたするので、保湿剤は使用しません。刺激の少ない方法で洗って乾かすことが大切です。

 もちろん、遺伝的に頭皮が薄く硬くなりやすい方もいます。そんな方々のために、頭皮の再生医療の新たな研究が始まりました。土台を補強して毛包を守るのです。この研究が進むことで、従来とは異なる発毛の方法につながるのではないかと考えています。いずれにしても、土台を大切にしていただきたいと思います。

○北條元治(ほうじょう・もとはる)/ 株式会社セルバンク代表取締役、RDクリニック顧問、東海大学医学部非常勤講師、形成外科医、医学博士。1964年、長野県生まれ。91年、弘前大学医学部卒業。信州大学医学部附属病院勤務を経て、ペンシルベニア大学医学部で培養皮膚を研究。帰国後、東海大学医学部にて同研究と熱傷治療に従事。2004年、細胞保管や再生医療技術支援を行なう株式会社セルバンク設立。05年、RDクリニック開設に際し、培養皮膚の特許を取得。著書に『医者が家族だけにはすすめないこと』『美肌のために必要なこと』他多数。