交わされる意見は熱を帯び、担当編集者の四本さんも刺激を受けたと話す。「SNSで、まったく知らない人の日常をずっと追えてしまう昨今。観察しているくせに、直接コンタクトしようとはしない。実はこういう行動はだれしもの日常であり得るんだなと思います」と呼応した。

 四本さんは「むらさきや黄色という色彩はいわば記号。認められたいという欲求はありながらも、目立ちたくないという矛盾。光の当たるところにはいたいけれど、色という記号に隠れて安心したい。それがかなったものとして、黄色い女にとっては幸せな結末だったと読む人がいてもいいと思います」と、読み手に解釈を委ねた。

 一つのグループから出た意見に、参加者はうなずき合った。

「今村さんの作品は入試問題として題材にするのは難しいですよね。読む人の数だけ解釈があって、正解がないんだから」

■読み直すたびに印象が変わる作品

 四本さんからは、ラストの一文をどうするかで悩んだという今村さんの執筆秘話も明かされた。作品の余韻をどう残すかに今村さんは腐心し、改稿を重ねたという。

 引きずり込むように疾走する物語に張り巡らされた繊細な伏線。芥川賞選考委員の堀江敏幸さんは「見る側の奇妙な思い込みは、他人を鏡にして自身のいびつさを際立たせるのだが、そのいびつさをなにか愛しいものに変えていく淡々とした語りの豪腕ぶりに、大きな魅力がある」と評する。

 読書会でも、「読み直すたびに印象が変わる。矛盾さえ魅力になっている不思議な作品」と話す参加者は多かった。

 池谷編集長は、こう話して会を結んだ。

「これは答え合わせの場ではありません。今村先生の考えと読者の考えが違ったってかまわない。作品は世に出た瞬間から、読者のものなんですから」

(文/ライター・浅野裕見子)