3つ目のウソが、日米貿易交渉の名称だ。安倍政権は、今回の協定を「TAG(物品貿易協定)」と呼び、交渉はモノの関税だけに限られると説明してきた。それに対して米国側は「USJTA(米日貿易協定)」と名付け、交渉は物品だけに限らない方針だった。

 結果はどうか。現時点で公開されているのは、たしかに牛肉や豚肉の関税削減が中心だが、インターネットを介した音楽や書籍のコンテンツ配信などの「デジタル貿易」も議論されている。すでに、TAGという呼称もほとんど使われなくなってしまった。

■今後も譲歩を迫られる安倍政権

 日米の交渉はこれで終わるわけではない。ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は「この合意は、70億ドル(約7400億円)を超える米国農産品に市場を開く」と説明している。

「TPPから脱退したことで、米国は牛肉と豚肉の関税削減で他国に遅れをとっていました。それを早く取り戻したいという米側の要請に応え、今回は『アーリー・ハーベスト(先行実施)』として急ぐものを中心に合意をまとめています。現時点では、TPPで合意していた乳製品などの米国枠の設定は見送られたと一部で報道されていますが、米国が自国枠を放棄するわけはなく、今後も自動車への追加関税を脅しに日本に譲歩を迫る可能性は十分にあります」(鈴木教授)

 日韓の激しい対立が繰り返し報道されるなかで、日米貿易交渉の結果はほとんど検証されていない。安倍政権が韓国への敵意をむき出しにしている裏で、日本の“国益”が次々と失われている。(AERA dot.編集部/西岡千史)