がん患者で写真家の幡野広志さん(右)と京都大学大学院特定准教授の大塚篤司医師(左)(撮影/横関一浩)
がん患者で写真家の幡野広志さん(右)と京都大学大学院特定准教授の大塚篤司医師(左)(撮影/横関一浩)
(左)幡野広志(はたの・ひろし)写真家。2017年に多発性骨髄腫を発病し、余命宣告を受ける。(右)大塚篤司(おおつか・あつし)京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医。がん治療認定医(撮影/横関一浩)
(左)幡野広志(はたの・ひろし)写真家。2017年に多発性骨髄腫を発病し、余命宣告を受ける。(右)大塚篤司(おおつか・あつし)京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医。がん治療認定医(撮影/横関一浩)

 昨今、働き方改革、無給医問題などで、疲弊する医療の現状が取り上げられ、過労死ラインをはるかに超える医者の労働時間にも注目が集まった。しかし、なぜ医療現場はよくならないのか? 2017年末に血液がんの一種・多発性骨髄腫で余命3年と宣告された写真家の幡野広志さんと、著書『心にしみる皮膚の話』が発売中の京都大学大学院特定准教授・大塚篤司医師の対談、第3回。

【写真】大塚医師とは大学の同級生。小説『神様のカルテ』著者の夏川草介さん

【第2回 本音を言えない医療現場――口をふさがれているのは患者か、医者か?】

 疲弊する医療現場、マスコミの医療報道のあり方について語った。大塚医師は、医者と患者の葛藤がブラックボックス化されることについて警鐘を鳴らす。

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■いま健康な人たちに、何を発信できるか

大塚篤司(以下、大塚):幡野さんはがん患者の立場として、「患者が本音を言えないのはおかしい」と言っています。ただ幡野さんはSNSでのフォロワーも多く、写真が撮れる、文章が書ける、うそがない表現をできる人です。そういうことができない人はどうすればいいと思いますか?

幡野広志(以下、幡野):酷な話になると思いますけど、患者になってからじゃ遅いと思うんです。患者になってから性格が変わってしまう人もいるじゃないですか。健康だったときにどういう生き方をしていたかが、患者になってから反映されます。

 僕は健康な時から自分の好きなことをして、周りのことをあまり気にしない人だったので、病気になってからもそうしているだけ。

 僕が本を誰に向けて書いているかというと、10歳ぐらいの子どもなんですよ。それから、そのぐらいの小さな子どもを育てている親や、教育者。将来、社会の中心になる世代が社会を変えてくれることを望んでいるんです。

 僕のもとには毎日たくさんのダイレクトメールが届きますが、一切返信していません。ただ唯一、将来医者になりたいという若者には返信しています。その後押しで、その若者が将来たくさんの人を救うかもしれない。

大塚:なるほど。僕は、患者さんと向き合う以外の活動の時間を与えられていることは、とても恵まれていると思っています。いまの患者さんではなく、いま健康な人になにができるか。これまで医者はそれを発信してこなかった。

幡野:いまの患者さんを救おうというのはなかなか難しいと思いますね。僕は30代でがんになりましたが、30代のがんの罹患率は1%以下。2人に1人ががんになると言われていますが、その多くは高齢者の話です。

 ほとんどの人は、若いうちにがんのことなんて考える機会はありません。でも若いときにがんのことを考えておけば、患者になったとしても本音を言えると思うんです。健康なうちに、いかに考えを積み重ねられるかが大事だと思います。

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崩壊寸前の医療現場、どれだけの人が気づいているか