幡野:本当に? そういうものなんですか。

大塚:例えばアトピー性皮膚炎の場合、ステロイドさえ塗ればいいという医者と、ステロイドをただ塗るだけじゃ不十分という医者がいる。医療に絶対はないというのが基本ルールですが、標準治療の話になると突然「絶対よくなる」と言ってしまう医者もいます。僕はそれを疑問に思っているんです。人の体なので、効果が出る人もいれば出ない人もいて当然。緩和ケアの話をすれば、「緩和ケアで死ぬ前の苦痛はゼロになる」と主張する医者もいますよね。

幡野:そういうふうに言う医者もいますね。ええ。

大塚:でも幡野さんはそうではないと。緩和ケアでできることには限界があるから、その先は安楽死という選択肢もあるのではないかという意見ですよね。医者も「自分は最後まで患者のためになれるんだ」と信じているのか、自分の限界を把握しているのか、その二つに分かれますよね。

幡野:結局、死生観とか人柄とか、患者と医者の相性が重要になってしまうんですよね。治療の選択肢という意味では、ガイドラインに標準治療の記載がありますから、患者も調べられるんですよ。だけど医者の人柄はわからないじゃないですか。

■「看護師に聞け」 いい医者選びの方法

大塚:医者選びは難しいですよね。

幡野:今はどこにいても同じレベルの薬をもらえ、同じレベルの手術を受けられる。だからこそ純粋に相性だけで医者を決めていいと思います。でも相性の合う医者を見つけるのは難しいですよね。本音を言う医者がいいという人もいれば、本音を言わない医者がいいという人もいる。医者が自分から情報発信をしてくれれば、患者としては楽ですよね。

大塚:患者さんも僕が書いているものを見れば、どんな人かわかりますからね。合わないと思ったら医者を変えるという選択肢もあります。

幡野:むしろ医者のほうが大変ですよね。医者は患者を選べないし。

大塚:医療倫理の問題にもなります。プロフェッショナルとして、どんな人でも助けなければならないという教育を受けていますからね。どんなに悪いことをした犯罪者であっても、助けたくないから治療しないという医者はいません。

 医者を選ぶときのポイントですが、「看護師さんに聞け」というのが僕の答えです。看護師さんは医療の裏側を一番よく見ているんです。もしくは病院の受付の人。患者さんの口コミや評判というよりは、同じ病院で一緒に働いている人の評判のほうがいいと思います。

幡野:僕も同じです。医者って狭い世界だから、医者と話しているときに別の医者の名前を出すと「ああ、知ってますよ」と言われることがある。そこで僕は物まねをするんです。僕は主治医の物まねがけっこううまいんですよ。で、その時にどんな反応をするかを見ているんです(笑)。

 物まねの対象が好きな人だったら心地よい笑いをすると思うのですが、嫌いな人だったらそうではない笑い方になったり、顔が曇ったりすると思うんですよね。だから僕は医者の物まねを看護師さんにしたりする。そういう時に心地よい笑い方をしてくれたら、「この医者は好かれているんだな」と、ほっとします。

大塚:裏側を説明してくれるのは看護師さんだと思います。「患者さんに優しいお医者さんだよ」「ぶっきらぼうだけど長く付き合えるお医者さんだよ」とか言ってくれますからね。看護師さんとか受付の人のほうが、医者よりも仲良くなれるじゃないですか?(笑)

幡野:確かに、僕らは医師と接する時間は短いですからね。短い時間で接している患者の評判より、長い時間接している看護師の評判のほうがいいですよね。

◯大塚篤司(おおつか・あつし)
京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医。がん治療認定医。AERA dot.での連載をまとめた『「この中にお医者さんいますか?」に皮膚科医が……心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版)が発売中。

○幡野広志(はたの・ひろし)
写真家。2017年に多発性骨髄腫を発病し、余命宣告を受ける。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)などがある。

(構成/白石 圭)