少し前にさかのぼるが、7月5日に「あさイチ」(NHK)に出演した山口さんを見た。大根と厚揚げと、巾着と卵がぶら下がっているイヤリングをしていた。亜矢美のおでん屋にちなんだものだと説明して「こまごましたこと、好きなんですよ」と笑っていたから、自分で探したということだろう。

 ちょっとハワイっぽい柄の、上下バラバラに見えて実はワンピースというおしゃれな服を着ていた。近江友里恵アナウンサーが、「今日のお洋服は、ご自身で選ばれたそうで」と紹介した。山口さんは「ガタイがいいので、海外に行ったら買うんです」と答え、「(スタイリストの用意する服は)はいらないんです」と言い、「うちの主人と同じサイズで」と補足していた。

 唐沢寿明さんと同じとは本当かなと、ちょっと疑いつつ見ていたら、最後に好き嫌いクイズになった。山口さんの嫌いなものは「カラオケと体重計」、好きなものは「肉、柏、大福、風」だった。そっかー、体重計は嫌いかー。計らないのね。ふーん。

 と、白けてもおかしくない状況なのだが、ギリギリ踏みとどまらせるのが、山口さんの山口さんたる所以だった。なんというか、素直なんだなと思わせる人なのだ。

 番組の中で、31年前の山口さんの映像が流れた。女優デビューが朝ドラ「純ちゃんの応援歌」(88年)の山口さん。ヒロインに決まった時の記者会見の映像だった。「山口智子です。好きなことは、泳ぐことと料理をすることと歌舞伎鑑賞です」。少し高い山口さんの声がした。

 次の瞬間、今の山口さんの声が聞こえてきた。「今、全くしないことばかりだなー」。そして「人間が根本から変わったとしか思えなーい」。ちょっと可笑しそうに、そう言った。

 料理をしないという話は途中でもしていた。結婚している女優さんでこういう話する人って、あんまり多くないだろうなー。飾らない54歳なんだなー。

 そんなふうに思う58歳の私、あんまり料理しません。(矢部万紀子

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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