甲子園出場校の選手名鑑には、必ず「出身中学」が明記されている。

 取材陣にとっても不可欠なアイテム「週刊朝日」の代表49校戦力データ。私もそれこそ、四半世紀近く高校野球の取材を続けているが、選手名鑑に「神戸大付中等」という見慣れない学校名を見つけたのは、それこそ初めてのことだった。

 地元では「神大付属住吉」として呼ばれている国立の中高一貫校。正式名称は「神戸大学附属中等教育学校」という。

 兵庫・芦屋市生まれの西川は、小学校からそこに通っていた。つまり“お受験組”だ。実は、西川らの学年が同校にとっては「小中一貫校」としての最後の学年だった。西川が中学に上がった2009年から同校は「中高一貫校」に切り替わった。

 成績も優秀だったという西川は、意志さえあれば高校まで通うことができたのだ。国立大学の付属校。有名私学や、県立の進学校と併願して受験する生徒も多く、教育環境としては最高だろう。難関国立大、有名私学へ現役で合格する生徒も多い。

 大学進学、そして将来の選択肢を広げる。社会が変わりつつあるとはいえ、やはり日本における「学歴」の優越性は高い。そういう観点で現実的に考えてみれば、国立大の付属高校に通うというのは、今後の人生を考えてもメリットは大きいだろう。

 しかし、西川の中では「違和感」が膨らんでいたという。

 高校には、野球部がないのだ。

 よほどの不成績でもない限り、高校にはエスカレーター式で上がれる。「高校進学=甲子園断念」。西川の心の中では、そういう図式になる。

「中学で野球を辞めたら、後悔しそうな気がしたんです。今までやってきたのに、中途半端に終わってしまう。だから、迷いはなかったです」

 中学にも、野球部はない。だから、授業を終えると、電車に乗って、ヤングリーグの兵庫伊丹に通ってプレーを続けていた。打率3割、本塁打30本、30盗塁の「トリプル3」を2年連続で達成したヤクルト・山田哲人の出身チームだ。

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「前代未聞」の決断