履正社・西川黎 (c)朝日新聞社
履正社・西川黎 (c)朝日新聞社

 甲子園を目指す。

 それは、高校球児にとって最大の夢である。ただ、聖地へたどり着くまでの道のりは長く、険しく、そして、果てしなく遠い。

 2019年、第101回全国高校野球選手権大会の地方大会参加校数は、全国で3730校。地方大会で優勝するまでの試合数が各都道府県で違うことは承知の上で、単純に計算してみても甲子園で戦えるのが49校だから、出場できる確率は、わずか「1.3%」に過ぎない。

 自分の実力だけではない。チームメート、家族を含めた周囲のサポート、学校側の協力体制といったものは、自分ではどうすることもできない「運」の部分でもあるだろう。

「そんな、夢みたいなこと言っても、簡単なことじゃないよ」

「プロになれるわけでもないし、高校でしっかり勉強しておかないと、後で困るよ」

 高校生の熱い思いに、つい冷や水をかけてしまうのは、むしろ周囲の大人たちの方かもしれない。

 しかし、甲子園という最高の舞台に向かって、ただひたすらに、情熱のすべてをかけて目標に取り組める時期も、高校時代しかないのだ。

 その努力、一途に打ち込んだ姿勢は、今後の人生において決して無駄にならない。

 そうした「今しかできないことをやる」という尊さを強調し、その思いを応援してくれる人たちがたくさんいるのも確かだ。

 だから、その狭間で15歳の心は揺れるのだ。

「野球をやっている以上は、甲子園に行きたかった。中途半端に終わるのが嫌で、やるからには、甲子園を目指そうと思ったんです」

 履正社の背番号「7」、西川黎のまっすぐな思いに触れたとき、ふと、自分の高校時代のことを思い返していた。

 自分には、こんな強い信念と、確固たる目標があっただろうか──。

 身長172センチ。強豪・履正社の中では決して大きくないその体で、得意のバッティングを生かして「6番」を張り、堂々のレギュラーの座をつかんだ。

 そして、3年生最後の夏。履正社は初の全国制覇を成し遂げた。

「まだ、実感がわかないです」

 勝者だけが手にできる「金色のメダル」が胸の前でまぶしく輝いていた。

 甲子園という夢へ、ぶれずに向かっていき、自分の力でそれを見事に実現させた1人の球児の姿が、そこにはあった。

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西川の中で膨らんだ違和感