本来は熱気があふれる甲子園のアルプススタンドだが… (c)朝日新聞社
本来は熱気があふれる甲子園のアルプススタンドだが… (c)朝日新聞社

 連日熱戦が行われている第101回全国高校野球選手権大会。今年もどんなドラマが生まれるか大いに楽しみだが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「思い出甲子園 真夏の高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、夏の選手権大会で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「割りを食った人々編」だ。

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 降雨コールドゲームで、勝ったほうも負けたほうも割りを食う羽目になったのが、1988年の1回戦、滝川二vs高田(岩手)だ。

 悲願の甲子園初出場をはたした高田は1回表、1、2番の連続長短打で1点を先行したが、なおも無死一、二塁のチャンスに送りバントとヒットエンドランの失敗で追加点ならず。今にして思えば、このときツキが逃げてしまったのかもしれない。

 夏の甲子園初出場の滝川二もその裏、4番・佐野貴英の右前タイムリーで同点。2回に右翼手が目測を誤る幸運な三塁打で勝ち越したあと、3回にも山本貴司の2ランで4対1とリードを広げた。

 高田も5回に1点を返すが、試合前からぱらついていた雨がこのころから激しくなる。その裏、エース・藤原秀行がぬかるんだマウンドに足を取られ、暴投で追加点を許してしまう。

 そして8回、3対9とリードを広げられ、なおも2死一、三塁のピンチで32年の早稲田実vs秋田中以来56年ぶりの降雨コールドゲームが宣告された。

 直後、高田の応援スタンドでは、最後まで試合ができなかったショックから、女生徒たちが抱き合って泣き、応援団長も「自分たちの応援が足らなかった」と天を仰いだ。

 雨は勝者の滝川二にも影響を及ぼした。選手や応援団の健康を考慮して、試合後の校旗掲揚と校歌斉唱が省略されてしまったのだ。

 佐野主将は「(校歌を歌えなかった)無念さは次も勝って穴埋めします」とコメントしたが、2回戦で東海大甲府に敗れ、同校が夏の甲子園で初めて校歌を歌うことができたのは、11年後の99年だった。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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