現役時代はスタメンなら4打席のうち、チャンスの場面でいかに長打を打てるかを考えていた。走者がいなくても、自分に長打が出れば二死でも得点チャンスが高くなる。勝つために得点を挙げるわけだから、重要な数値に間違いない」

 藤井コーチが現役時代にはOPSという言葉はなかった。しかし、打席内で考えていたことは、まさにその概念。現役16年で282本塁打、OPSは0.841というのも納得だ。

 吉田はサムライジャパンでも活躍し、知名度抜群のスラッガー。相手チームからのマークも厳しいが、その中で自らの打撃を磨き、OPSの数値を上げることがチームの勝利に直結すると信じている。

「結果を出せばOPSも当然上がる。そのためにも、しっかりとボールを捉えることが大事。フルスイングと言われるけど、最初はそこ。その上で追い込まれたら、確実性を上げる打ち方にシフトする。ミートポイントを身体の近くにすることで対応する。強くスイングする意識とともに、確実に強く捉える意識を強くする」

 勝利の確率を上げるためにデータを活用する。田口コーチが語るように「勝てる要素が1つでもあるなら使いたい」というのが切実な本音。それと同時に、吉田のように状況の変化に対応する準備を欠かさないのも重要である。

 野球は失敗のスポーツ。どんなに完璧な準備をしたとしても、うまくいかないことがほとんど。特に打撃に関しては10回中7回は失敗する。

 データ(=数字)という明確に残るものが、野球の勝敗には最も不透明な要素になることもある。計算通りうまくいかないのは、人生と同じ。だから野球は難しく、おもしろい。(文・山岡則夫)

●プロフィール
山岡則夫
1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍やホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を不定期に更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。