足元に転がっていた1本のバットが試合の流れを大きく変えてしまったのが、07年の1回戦、今治西vs八代東だ。

 0対0の5回、今治西は先頭の浜元雄大が右翼線二塁打を放ち、送りバントで1死三塁と先制のチャンス。だが、期待の4番・代聖人(現西武)は、力んで捕邪飛を打ち上げてしまい、2死と思われた。

 ところが、なんとしたことか、八代東の捕手・岩崎大地が足元に転がっていたバットにつまずいて体勢を崩したことから、打球に追いつけずファウルにしてしまった。

「上しか見ずに打球を追っていたので、(足元に)バットがあるとは思わなかった。バットをどこに置けというルールはないし……」(岩崎)

「捕手も歩けばバットに当たる」という思わぬアクシデントで命拾いした熊代は「1回はアウトになった気持ち。野球の神様がチャンスをくれた」と気持ちを切り替え、2ストライクからの3球目を右前に先制タイムリー。

 ここから試合は一気に動く。5番・笠原綾太も左前安打で続き、2死後、尼田一輝、武内涼平の連続二塁打で計4点。6回にも6安打に2四球を絡めて大量7点を加え、試合を決めた。

 4投手の小刻みな継投でノーシードから県大会を勝ち上がってきた八代東は、先発・野田恭平が4回まで3安打5四球と毎回ピンチを迎えながらも無失点に抑えてきたが、5回から2番手・宮田勇貴に継投したことが結果的に裏目に。

 試合後、鬼塚博光監督は「野田を引っ張りすぎて、ウチの野球を見失うほうがまずいと考えた」とコメント。

 継投策は予定どおりだったが、捕手の足元に転がっていた1本のバットが勝利の方程式をも狂わせてしまった?

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2018」上・下巻(野球文明叢書)。

著者プロフィールを見る
久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

久保田龍雄の記事一覧はこちら