今治西・熊代聖人 (c)朝日新聞社
今治西・熊代聖人 (c)朝日新聞社

 第101回全国高校野球選手権大会が開幕し、今年もどんなドラマが生まれるか大いに楽しみだが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「思い出甲子園 真夏の高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、夏の選手権大会で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「思わず唖然のどんでん返し編」だ。

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 スクイズ成功で同点と思われた直後、生還したはずの三塁走者にアウトが宣告される珍場面が見られたのが、1992年の3回戦、天理vs東海大甲府だ。

 2回表に1点を先制された東海大甲府はその裏、2安打と四球で1死満塁のチャンス。望月保雄監督は次打者・長嶺和樹にスクイズを命じた。

 長嶺は初球を三塁手の前に転がし、三塁走者・三島正文が躍り上がってホームイン。1対1の同点になったかにみえた。

 ところが直後、桂等球審は、突然東海大甲府ベンチに近寄ると、三島に向かって「アウト!」と叫んだ。そして、スクイズを決めて一塁でアウトになったはずの長嶺が打席に呼び戻された。これには2万3千人の観衆も「一体何が起きたんだろう?」と目を白黒。

 実は、長嶺はスクイズを試みた際に左足が打席からはみ出し、ホームベースを踏んでいたのだ。

 これは野球規則7.08の反則打球に該当するもので、妨害行為に及んだ打者はアウトにならず、守備の対象である三塁走者がアウトになる。この結果、打者の長嶺ではなく、三塁走者の三島がアウトになったという次第だ。

「バントは練習していたんですが……。夢中だったので何が何だかわかりませんでした」という長嶺は、気持ちの切り替えができないまま2死一、二塁で三振に倒れ、この回無得点。

 “幻の同点劇”に気持ちの整理がつかなかったのは、長嶺だけではなかった。直後の3回、東海大甲府は内外野で3失策と乱れに乱れ、あっという間に3点を献上。これが致命傷となり、終盤の猛反撃も実らず、4対7で敗れた。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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